「子どもと一緒に波に乗る」チャイルド・ライフ・スペシャリスト―小児がんを考える④

「チャイルド・ライフ・スペシャリスト(CLS)」という資格をご存知ですか?アメリカで生まれた資格で、病院や医療現場で子どもや家族がストレスを感じたとき、遊びや情報提供、環境設定(病院内の環境を子ども目線で整える)などを通じて、それを乗り越えるためのお手伝いをする専門職です(チャイルド・ライフ・スペシャリスト協会より)。

この資格はアメリカのChild Life Councilという団体が認定しています。取得のためには渡米する必要があり、日本ではまだ人数が多いとはいえません。しかし病気と闘うお子さんと家族を支える上では、とても重要な役割を担っています。

国立成育医療研究センター 子どもサポートチームの取材連載、今回はCLSの伊藤 麻衣さんにお話を伺いました。

お話を伺った方の紹介:国立成育医療研究センター 伊藤 麻衣さん
独立行政法人国立成育医療研究センター 認定チャイルド・ライフ・スペシャリスト。子どもや家族、医療スタッフにとって、必要なときに手にとれる“心地よいブランケット”のような存在を目指し、病院にかかわる子どもたちやご家族ができるだけ安心して過ごせるよう日々活動を行っている。

※写真:小児がん病棟内のプレイルーム

医療者や家族と相談しながら子どもをフォロー

―CLSは、医師や看護師とはまた違う立ち位置でお子さんを支える役割を持っていると思いますが、実際どういう職種なのでしょうか?

CLSは、身体のことや病院で起こることを子どもたちにできるだけわかりやすく説明したり、処置や検査・手術を子どもたちやご家族が乗り越えられるように支援したりする職種です。医療行為はしませんが、医師や看護師をはじめとする多職種とコミュニケーションをとり、医療チームの一員として子どもたち、そしてその子どもたちのことを一番理解している親御さん・保護者の方とのコミュニケーションをとることが仕事です。

例えば、子どもが医師から説明を受けた後で、自分の病気や障がい、治療や処置などについてどんな風に理解しているのか確認したりします。まず子どもたちの話を聴いて、誤解があれば修正しますし、言葉を噛み砕いて理解をより促すこともあります。そして、その子らしく対処するにはどうしたらいいか、子どもたちと相談します。

 

―先生方が説明したことをサポートしたり、復習したりする役割ということでしょうか。

そういう場合もありますし、医師や看護師と相談しながら一緒に説明をすることもあります。他に事前に心の準備をすることを手伝う介入を“Preparation(プリパレーション)”といい、写真ブックや人形、ひとりずつに合わせて作成した絵本に加え、実際の医療物品を使って行うこともあります。

また、子どもたちが実際に経験することを、できるだけ本番と同じ手順で事前に経験してもらう“Rehearsal(リハーサル)”を行うこともあります。たとえば、事前に処置室を見学する、手術室や放射線治療室を訪問して次に来るときにやることを確認して予行演習しておくなどです。説明したことがきちんと行われ、逆に説明していないことが急に起こらないようにする必要があるので、手順や環境などを事前に医療者間で確認した上で子どもに説明します。さらに、「ここまではママと一緒にいく」「写真をとっている間はDVDを見ていることができる」など、子どもたちができることを提示した上で、どうすれば処置や検査を乗り越えやすいかを子どもたちと相談します。心の準備ができると、「ちょっとやだけど、やってみる」という主体的な協力につながります。

子どもたちとかかわるときは、必ず親御さん・保護者の方に相談します。そして医療チーム内で情報共有して、子どもたちとかかわったらまたご家族と医療チームにフィードバックして、子どもたちをさらにフォローして…というのがかかわりの流れです。コミュニケーションをとりながらその子にとって何が一番いいのかを考えていくので、「これをやります」という決まったものはありません。

 

―処置に付き添う際には、どのようにフォローしていますか?例えば、外来を含めてしばしば行われるであろう「採血」の場合、お子さんたちはどんな様子でしょうか。

まずは“採血”について一人ひとりに合わせて説明して、“腕を動かさないこと”などその子の役割を伝えます。だっこやベッドに横になるなどの体勢、そばにいる大人(家族、医療スタッフ)の存在などその子に必要な環境を整えれば、どの子もその子なりに適応できるんですよ。

“泣く”ことも、年齢や子どもによっては乗り越えるための大切な要因です。乗り越えるためのプロセスの一部なのか、パニックになっているのかは常にアセスメントするようにしています。

どの子にも、お話が聴けた、処置室に入ることができた、一度でも自分で腕が出せた、とか必ず褒める部分があるはずなんですよね。そこをきちんと見つけて、言葉で具体的にねぎらって、次につなげていきます。できなかった部分にフォーカスするのではなく、次に同じような時はどのように乗り越えるかについて子どもやご家族と一緒に考えていくんです。

また、処置を見たほうが対処しやすい子どもと、見ないほうが対処しやすい子どもなど、年齢や性格に合わせて体勢や環境をととのえるようにしています。必要があれば意識転換や視界調整のため、絵本やDVDやおもちゃを使ったりすることもあります。

可能な限りご家族を含めて医療チームで事前に打ち合わせをして、子どもが乗り越えるための環境を整えます。子ども自身が持つ“乗り越えていくパワー”はすごいですよ。

 

―手術などの大きなイベントでも、基本は同じですか?

 そうですね。年齢や理解度に合わせて、その子ども自身が実際に経験すること、麻酔導入や術後のことまで説明します。また、事前に手術室ツアーに行くこともあります。病室から手術室までの道のりと、手術室があいていれば手術室の中も見に行って、ベッドに座らせてもらったり、マスクを実際にあててみたりします。手術室の看護師や麻酔科医が一緒にお話ししてくれることもありますよ。

事前に経験することで、「どうしたら乗り越えられるか」と子どもたち自身の心の準備をするきっかけになります。ただし、強調しておきたいのはCLSの介入の目的は、子どもが泣かないで笑っていられることではないということです。子ども自身が、何がおこるのか・何をする必要があるのかを正しく理解すること、そしてそれをどう乗り越えるかについて子ども自身が自ら考えて対処できるようにすること、ご家族や医療スタッフがどう協力してそのお手伝いをするかを事前に打ち合わせること、にあります。

 

「遊び」を通じて感情を表出する

―CLSのお仕事の一つに「遊び」があるといいますが、お子さんたちとは、どういった遊びをされるのですか?

CLSの遊びは、発達段階に合わせて感情やストレスの表出や発散を促し、浄化することを大切にしています。

子どもたちの体調やストレスの具合、治療の進み具合に合わせて、その日提示する素材を選んでいます。また、子どもたちが主体的に選ぶことができるよう、遊びをいくつか提示します。そして、純粋に遊ぶことを楽しめるような声かけやかかわりを心がけています。

例えば、子どもがいらいらしていると判断したときは粘土や水・お湯遊び、シェービングフォームや絵の具を使ったりします。シェービングフォームと絵の具を混ぜて画用紙にぴゅっと出すと、乾いたときにモコモコするんですよ。絵を描くというよりは、ぐちゃぐちゃした感触を感じたりバッとぶちまけたりもします。そういった感覚を刺激する遊びも多いですね。子どもたちの好きなようにやってもらっています。

年長の子たちの場合は、ただそばにいることも多いです。ずっと世間話をしたり、漫画や映画を一緒に観たりすることもあります。医師や看護師に許可を得て、一緒に少し病棟の外に出て気分転換をすることもあります。

CLSの遊びには「このときはこの遊び」と確立したものはあまりありません。そのため、CLSによって遊び方に特徴が出るかもしれませんね。私はどちらかというと感覚系の遊びが多いですし、パペットが得意なCLSもいればボードゲームをよく使うCLSもいます。その子の好みや性格などに加えて、診療科や入院期間、手術後などの状況によっても発散の方法が変わってくるので、日常的なもので遊ぶこともあれば、医療物品で遊ぶこともあるというわけです。

 

―話を聞く、というところでは、世間話以外にお子さんたちの相談に答えることも役割の一つになるのでしょうか。

そうですね。子どもたちからは治療のことから進路のことまで、いろいろな相談を受けることもあります。

ただ、答えるというよりは、聴くことが最初の役割かなと思います。医療的なことは私が答えるべきではないので、「先生に確認しようか」と促した上で医師に情報共有をします。また、私に「先生に聞いておいて」という子の場合は、確実に聞いて確実に返すようにしています。どちらが良いのか、個別に見極めて対応をしています。

 

言葉を選びながら、絵本で説明

―治療や病気への理解は、どの程度までわかってもらうようにしているのでしょうか?

それぞれの子どもの年齢や理解度に合わせて、入院の理由や処置・薬の理由などを正しく分かってもらうように心がけています。それからみんなが味方で、一緒にやっているんだと思えるような言葉選びを大切にしています。

説明をするときは、間違った理解や混乱を予防する、もし間違った理解や混乱がある場合には修正することが重要です。2~3歳の子に「白血病細胞」と言っても分かりませんよね。なので、「体/血の中にばい菌がいるのが分かったんだ。それを一つ残らずやっつけなくちゃいけないから、お薬をするよ。お薬が強いから、髪の毛が抜けるよ。でもお薬が終わったら必ずはえてきます」などと情報を噛み砕き、分かりやすくします。「ばい菌」がいいのか「かたちがちがう細胞」がいいのかなどは、親御さんと相談しながら決めています。

ご家族がどうしても使いたくない言葉(病名など)があるのであれば、なぜその言葉を使いたくないのか先に確認します。その上で、できる限りご家族の意向を尊重しながら、子どもの年齢を考えて「こう言いましょうか」という提案をするんです。「がん」「白血病」という言葉を最初から使う必要はないかもしれませんが、「頑張る相手」が分からないと、子ども本人もどこでどう頑張ればいいのか分からないですよね。その辺りを親御さんと相談し、医療者とも合わせます。病気そのもののことだけでなく「みんなが味方だよ」と伝えませんか、と提案することもあります。

説明時には、絵本を作ることが多いです。お子さんが好きなイラストを表紙に使ったり、言い方もその都度変えたりして、名前を入れて作っています。ご本人の分と、希望があればごきょうだいの分を作ります。

 

―患者さんのごきょうだいに対するフォローもされているのですね。どのようなケアをしているのですか?

ごきょうだいも、患者さんや親御さんと同様にみんなとっても頑張っています。病気のきょうだいへの心配や自分が健康なことへの罪悪感、家族の生活スタイルや役割の変化への適応、疎外感や不安、などたくさんの想いを抱えて、それでも日々に適応しています。

いろいろなケースがありますが、例えば、病気や生活についての絵本を作成して、できるだけ明るい窓がある部屋で絵本を読み合わせます。大切なお話の前後に遊びを使ってリラックスしてもらったり、気持ちの発散を促したりしています。1回の子もいれば何回も通ってくれる子もいます。

また、患者さんが一時退院中や外来移行後の外来できょうだいも一緒にきてみんなで一緒に遊ぶこともありますね。遊びを通して、ストレスや感情を表出・発散する機会になればと思っています。

また、終末期を過ごしている患者さんのきょうだいへ、「お別れの日がくるかもしれない」ということを絵本やかかわりの中でお話しすることもあります。そういったときは、どこまでどう話すか、絵本にどう描くか、親御さんと細部までしっかりとお話して決めていきます。

かかわりを行ったあとの気持ちのフォローはとても大切です。ただ、普段おうちにいることの多いきょうだいの子たちを医療スタッフがメインでフォローしていくことはとても難しいですよね。だからこそ、ごきょうだいへのフォローでは、親御さん・保護者の方、家族の方との協力が必要不可欠なのです。

 

「前に進んでいく力をちゃんと持っている」

―ご家族によっては病名を伝えたがらない、というお話もありました。実際、お子さんたちは自分の病気について知るとどのような反応を示すのでしょうか?

子どもによって様々ですが「え?!」とはなるけれど、その後は「へぇー」という反応をよく経験します。特に小学生は、学校を休まなければいけないことにショックを受けるようで、「入院?」「長いの?」と泣いてしまうことも多い気がします。ただ、告知された後ずっと落ち込み続ける子はあまりいない気がします。

年長になるとそれなりに知識も増えるので、「死にたい」「どうして自分ばかり」と言う子ももちろんいますが、それは受容のプロセスにおいて必要なことだったりします。でも、決してひとりにはしません。子どもたち本人とよくよく話をします。子どもたちのどんな言葉もきちんと聴いて受け止めます。

子どもたちは前に進んでいく力をちゃんと持っているので、私はよく、レールを敷くのではなく、一緒に波に乗る感覚だと感じます。情報や状況、気持ちを共有して、そばにいて、進む力がたまってきたらまた一緒にすすんでみる、この繰り返しです。

彼らが落ち込んでいる時、私は一緒に落ち込むわけではないけれど、その場所に一緒に降りていって隣で「落ち込むこともあるよね」って。「あなたが死にたいって言っても軽蔑もしないし、離れてもいかない。必ずそばにいるから、どうやって進んでいったらいいか考えよう」という感じです。

「どうしたらいいの?」と聞かれることは多いですが、「こうしたらいい」と答えることはあまりありません。「どうしたらいいと思う?」と返します。提案するときも「同い年くらいで、前にこういう子がいたよ」と伝えることが多いです。同い年くらいの子がどんな気分転換をしていたとか、そういう提案をして、彼らに決めていってもらうことが多いと思います。

 

―最後に、伊藤さんがCLSのお仕事で一番のやりがいだと感じていることを教えてください。

子どもと家族が「乗り越えられた」と思えた時、やりがいを感じます。笑っていても泣いていても、どっちでもいいんです。彼らがきちんと「自分達で乗り越えられた」と思えるときが、一番のやりがいだと思っています。

あとは、医療スタッフも家族も子どもも落ち着いていることが重要だと感じています。よくモビールに例えますが、モビールって全部つながっているので、1個が揺れると全部が揺れますよね。スタッフが揺れれば子どもも家族も揺れるし、家族が揺れた場合も同様です。その揺れを止めるのではなくて、分かった上で「揺れてもいいんだよ」「みんなで揺れているから大丈夫だよ」と示していくことが私たちの仕事だと思います。

病気になると、家族や学校・社会以外に「病院の人たち」が味方になるので、それは強みにしてもらえたらいいなと思います。入院していても、頑張って生きて亡くなっても、サバイバーとして生きていっても、どんな状況であれ、私たちが忘れることはないし、必ずそば見守っている、そういう大人たちがいることが子どもたちの人生の糧にすこしでもなれば。

病気も障害も、なったことで気をつけなければいけないことが増えます。ですが、決してずっとものすごく暗いものでもないし、その子や家族が不完全だというわけでもありません。どんな人生でも生きていくのは本人ですが、CLSとして子どもたちやご家族が少し心細いとき、安心したいときに手に取る心地よいブランケットのような存在になれればと思っています。

編集後記

今回の取材では、伊藤さんが何度も「子どもたちには前に進む力がある」「自分で乗り越えられるように」と繰り返していたのが印象的でした。子どもと家族・医療者とをつなぐ架け橋となり、子どもたちの絶対的な味方であり続けるCLSの存在が、今後日本でもさらに広まっていくことを願います。

次回(1月31日)は、緩和ケア科 余谷 暢之先生の取材の模様をお届けします。

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