飛び交う賛否 中日の松坂大輔獲得は、果たして是か非か

中日への入団が決まった松坂大輔【写真:荒川祐史】

松坂大輔の中日入りに批判的な声も…

 1月23日、寒風吹きすさぶナゴヤ球場。ソフトバンクを退団した松坂大輔投手が中日ドラゴンズの入団テストを受け、合格した。新天地を求めていた右腕は「中日の松坂大輔」となり「今日晴れて中日ドラゴンズの一員になれました。たくさんの方にナゴヤドームに足を運んでもらえるように、チームを、名古屋を盛り上げていきたいと思います」とコメントした。

 松坂合格のニュースは列島を駆け巡り、様々な反応を呼んだ。3年間在籍したソフトバンクでは右肩の故障に苦しみ、1軍登板はわずか1試合だけ。高額な年俸も相まって批判にさらされたのも事実だ。今回の中日入りに対しても、インターネット上では歓迎する声、批判的な声と賛否両論が飛び交っていた。

 果たして、中日の松坂獲得は是か非か。この答えは今シーズン、松坂がいかなる結果を残すかにもよるだろう。ただ、個人的な見解として言わせてもらえば、現時点では「是」だろう。

 中日と松坂は入団テスト後に正式に契約書にサインを交わした。年俸1500万円プラス出来高払い。この金額ならば、中日サイドのリスクは限りなく低く、享受するメリットは大きい。その最たる例が営業効果、露出効果だろう。

 テストが行われた23日の1日だけを見ても、それがよく分かる。入団テスト開始前からウェブ上には松坂関連のニュースが数多く流れ、テストが行われたナゴヤ球場には報道陣約100人ほどが集結。地元テレビ局は中継車まで出し、現場の空気をリポートした。森繁和監督は「皆さんがこうやって集まってくれたというのも、何か大輔っていうものに期待もあれば、いろんなことがあるから、集まってくれたと思います」とも話した。松坂見たさに約100人のファンも球場周辺に集まり、敷地を囲うフェンスにかぶりついて様子を伺っていた。

 合格決定後にはその結果とともに、松坂や森監督、西山和夫球団代表などのコメントが次々に報じられ、インターネット上には「松坂」の文字が躍り続けた。夜になれば、テレビ各局のスポーツニュースは、ほとんどがトップで松坂のテスト合格、中日入りを伝えた。翌日の新聞紙面でも大々的に掲載。まず、これだけでも多大な“効果”があったといえる。

ソフトバンクでも見られた凄まじい“松坂効果”

 松坂が3年間在籍したソフトバンクの話になる。例年、ソフトバンクの春季キャンプには大勢のファンが集まるのだが、松坂が加入した2015年のキャンプでは連日さらに数多くのファンが駆けつけ、平日でも1万人前後、週末ともなれば、3万人超の集客があった。松坂加入の際の盛況ぶりと言ったら、凄まじいものだった。

 3年目ともなれば、さすがに1年目のような過熱ぶりではなかったが、それでもその人気は凄かった。同級生の和田毅や内川聖一、松田宣浩、柳田悠岐、今宮健太、千賀滉大といった球界を代表する選手が数多くいる中でも、やはり別格だった。そして松坂は、時間があればサインなどのファンサービスを厭わない男だった。

 松坂がこれまで在籍した西武は高知と宮崎県日南市の南郷で、そしてソフトバンクは宮崎市内でキャンプを張っていた。一方、入団が決まった中日のキャンプ地は沖縄県北谷町。松坂がが臨む初めての沖縄キャンプとなるだけに、地元ファンが松坂見たさに北谷へ駆けつけることは十分に考えられる。そして「中日の松坂」としての一挙手一投足が、ホークス時代のように連日メディアを賑わすことになるだろう。北谷のキャンプ地にどれだけ集客があるかは始まってみないとわからないが、キャンプだけで年俸1500万円分は軽く“チャラ”となるだけのファンは来ることが予想される。

 ソフトバンクに在籍した3年間で、松坂が1軍公式戦のマウンドに上がったのは、わずか1試合だけ。2016年の最終戦、敵地での楽天戦だった。推定年俸は3年12億円と言われていたが、ソフトバンクの関係者によれば、グッズ販売やメディアなどへの露出効果などを踏まえると、松坂関連の収入で3年間の年俸の半分ほどは“ペイ”できていたのだという。1軍でほとんど投げていないにも関わらず、グッズ売り上げは上位にいた。さすがに年俸4億円では費用対効果が悪すぎたが、松坂退団後には「年俸5000万円や1億円なら獲得するメリットはあると思います」との声もあった。

 プロ野球球団はもちろん勝利を求められているが、それとともに「興行」でもある。プロ野球チームとして言えば、勝つことが最優先であるが、会社という視点で言えば、収益を上げることが重要となる。

 もちろん地道に選手を育てることも大事だが、チーム強化には投資も必要だ。そのためには、元手がいる。強さだけに限らず、様々な魅力を創出して観客を集めて資金を稼ぎ、それを元にチームを強化する。強くなれば、観客はさらに増え、収入も増加する。ファンにとって魅力となるサービスを生むことも可能となる。そうやって様々なビジネスが生まれ、望ましい循環が生まれていく。その1つとして、松坂獲得は大きな営業メリットを生み出してくれる可能性を秘めている。

 ファンの声の中には、松坂獲得による若手の出場機会減を憂う声もあった。だが、そこにも異を唱えたい。出場機会は与えられるものではなく、力で掴み取るものである。それは若手にも、ベテランにも、松坂にも共通する。競争だ。確かに松坂には実績も経験もあるし、知名度もある。もちろん復活を遂げてほしいが、3年間まともに投げられていない38歳に、1軍の座、ましてやローテの座を掴ませているようでは、他の選手が情けないのではなかろうか?

引き際は人それぞれ、「やりきったと思えるわけがない」と語る松坂

「ウチには若い選手も多いので、いろいろなものを参考にさせてもらいましょうと話はしました。松坂世代、松坂世代といって後ろ姿を追いかけてきた若い選手もいるんで、そういうもの、あるものを全部見せて、使って、言葉で、体で、いろんな後ろ姿でウチの選手にいろんなことを教えてやってほしい」と森監督は言う。松坂を押し出すくらいでなければいけないし、松坂にも力を取り戻して若手の壁になることが求められる。どちらにとってもぬるま湯であってはいけない。

「やりきったと思えるわけがないですよね。怪我をして、投げられなくて辞める、諦めるというのはしたくなかった。場所は変わるかもしれないですけど、投げ切って終わりたいという気持ち」と松坂は言う。選手それぞれに考え方があり、美学がある。まだやれる内に身を引くことも美学なら、ボロボロになるまで、燃え尽きるまでやるのも、その人の美学だ。引き際を周りが、とやかく言うものでもない。

 松坂自身は不調に悩まされ、苦しめられた右肩の状態についてこう語っている。

「去年の終盤ですけど、投げられそうな手応えがあった。僕はこの話をもらった時に、投げられる自信が無ければ断るつもりでした。オフの間もずっとトレーニングをしてきて、しっかり投げられるところを見せられると思ったので、ここに来ました」。現時点で、肉体面の不安はないようだ。

「10勝も20勝もしろとは言いません。ただ、自分がやり尽くしていなければ、やり尽くすまでココでやってみればいい」と森監督は言う。燃え尽きるまで、やればいい――。“最後の花道”を森監督は用意したのだ。

 言い方は悪いが、中日にとっては“客寄せパンダ”でもある。長年のキャリアがある今、それは松坂も理解しているだろう。「プロ野球選手はプレーできる場所がないとどうにもならないので」。右腕にとっては、現役としてプレー出来る場所が必要だった。そこから先は力と結果次第。兎にも角にも、中日にとって、そして中日ファンにとって、松坂加入は決してマイナスではないはず。

「日本に戻ってきて3年間まともに投げていないので、あまり僕の口から大きなことは言えないですけど、いろんな人に恩返しするためにも、1軍のマウンドに立つことを目標に、感謝の気持ちを持ってマウンドに上がれたらいいなと思います。大した力になれないかもしれないですけど、チームが少しでも上にいけるように、しっかりやりたいと思います」

 そう心境を吐露する“平成の怪物”の復活を願いつつ、行く末を見届けようではないか。

(Full-Count編集部)

© 株式会社Creative2