熱走407.3キロ 第67回長崎県下一周駅伝 平戸・桃田清海選手(24) 亡き父との思い出かみしめ 駆け抜けた古里のコース

 第67回郡市対抗県下一周駅伝大会第2日の27日、平戸チームの1区桃田清海(きようみ)選手(24)=諫早消防署=は、昨夏60歳で亡くなった父昭男さんとの思い出を胸に、古里を駆け抜けた。結果は区間11位。レース内容には満足していないが、「父との思い出が詰まったコース。懐かしさを感じながら走れた」。かつての日々をいとおしむように熱走を振り返った。

 9歳の時、母を乳がんで亡くして以来、自分と妹を男手一つで育ててくれた。おおらかで不器用な父との一番の思い出は釣り。平戸大橋の下にあるお気に入りの釣り座から、釣り糸を垂らす時間が何より好きだった。

 高校卒業後、就職で親元を離れ、県下一周駅伝に諫早チームの一員として出場するようになった。連絡はしてこないが、父はいつも沿道にいた。そして声援を送ってくれる。県内のどこを走っていても、そうだった。

 親の言うことを聞かない子どもだったが、社会人になって父のありがたみが次第に分かるようになり、親孝行の気持ちも芽生え始めていた。年に3回は帰省。家事を手伝い、一緒に釣りに出掛けた。一昨年10月、還暦を迎えた父が大好きで、桃田選手の名前の由来にもなった「海」をイメージした青色のセーターを贈った。口数の少ない父。「うれしい」などの言葉はなかったが、大事そうに折りたたむ姿から、喜んでくれている、そう確信した。

 別れは突然だった。昨年8月、親類から電話が入り、急いで実家に戻ったが、息を引き取った後だった。心筋梗塞。予兆はなく、つい数日前、「もうすぐ帰る」と連絡したばかりだった。ひつぎにセーターを入れた時には涙が止まらなかった。

 日課にしていたランニングは父の死を境にやめた。走る気分にはなれず、今大会にも出場しないつもりだった。だが年明け、小場俊雄総監督(57)から誘いがあった。「お父さんが好きだった色のリボンを、選手、スタッフ全員で着けて走ろう」。本番は迫っていたが、感謝の気持ちでいっぱいになり出場を決意した。

 任された1区は、平戸桟橋前(平戸市)から佐世保商工会議所北松支所前(佐世保市)までの14・6キロ。父との思い出の海を渡り、子ども時代に家族で暮らした田平町を南下するコースだった。監督陣や選手たちの計らいに何としても報いたい。そんな思いから、死にものぐるいで前を追った。胸に着けた青色のリボンを揺らしながら。

 「父がどこかで応援してくれている気がした」。無事走り切った桃田選手には、いつもの出走とは違う充実感が漂っていた。

亡き父への思いを胸に力走する平戸チームの1区桃田清海選手=平戸市

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