土砂災害・研究最前線~国総研・土砂災害研究部を訪ねて、その3~

ソーシャルセンサを考える

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国総研の本館(提供:高崎氏)

茨城県つくば市に広がる筑波研究学園都市の中核的研究機関である国土交通省国土技術政策総合研究所(以下、国総研)の土砂災害研究部を訪ねた。前々回、前回に続いて、土砂災害研究部の特筆すべき独自の研究成果を紹介する。第3弾である。

効果的な警戒避難~SNS情報活用~

毎年のように土砂災害によって甚大な被害が発生している。土砂災害による人的被害の軽減を図るためには、警戒・避難体制の強化は不可欠である。しかしながら、地元自治体(市町村)による避難勧告等の発令や住民自らの避難の判断のための状況把握は難しく、避難が遅れるといった課題が見られている(避難しようにも、できない事例もある)。

一方で、住民が土砂災害の前兆現象を見つけ、家族や近隣住民とともに避難して人的被害を回避した事例が度々報告されている。このような「地鳴り」「土臭い」などの土砂災害の前兆現象は、内閣府の「避難勧告等の判断・伝達マニュアル作成ガイドライン」において、自治体が発令する避難指示や、住民自らが直ちに身を守る行動をとるための重要な判断指標であるとされている。前兆現象等の土砂災害の切迫した状況を迅速に把握することは、早期の警戒・避難につながるものと期待される。以下、土砂災害研究部土砂災害研究室主任研究官・神山嬢子様の注目すべき論文「警戒・避難システムへのSNS情報活用の取り組み」から引用させていただく。

これまで、防災対応における監視には、雨量計や地震計などの物理量を計測するセンサ(物理センサ)が用いられてきた。一方、人が感知(見た、聞いた、感じた等)することによって得られた情報(ソーシャルセンサ情報)は、物理センサでは観測できなかった多様な現象を観測できるようになるとの指摘がなされている。

ソーシャルセンサ情報を防災に活用する施策は、平成11年(1999)に開始され、住民から土砂災害の前兆や発生に関する情報を地方自治体の防災部局に連絡してもらう「土砂災害110番」など、これまでも取り組まれてきた。しかし、住民にとっては土砂災害がまれな現象であり、普段使用しない連絡先であることなどから通報されることが必ずしも多くはないのではないかと考えられる。前兆現象等を把握しても情報の伝達範囲が家族や近隣住民に限られることや、情報を迅速に収集し、他の地域に伝達することに課題があったといえる。

それが(1)近年の携帯端末やSNSの普及により、文字や写真による情報発信や共有、収集が容易になったこと、(2)平成23年(2011)の東日本大震災の際にSNS情報が有効であったことーなどから、SNSの防災にける活用が一気に進んできた。そこで、SNS情報を土砂災害のソフト対策に役立てるため、前兆現象や災害の発生状況をSNSによるソーシャルセンサで把握し、これらの情報を警戒・避難システムに活用するための国土技術政策総合研究所の取り組み(株式会社富士通研究所との共同研究)を紹介したい。

1.前兆現象等の把握における「つぶやき情報」の利用可能性
この研究では、SNSの中でも情報のリアルタイム性が高く、他ユーザーとの情報交換・共有が容易なツイッターを用いている。前兆現象等に関するキーワードにより収集するツイートが投稿された場所を推定し、その地域の土砂災害の切迫性の高まりを把握する手法を検討している。

写真を拡大 図-1 降雨・土砂災害の推移とツイッター情報(平成24年7月九州北部豪雨、提供:国総研、以下同じ)

近年の災害事例として、平成24年(2012)7月九州北部豪雨の事例(図-1)を見ると、ツイッター情報から、阿蘇地域で集中的に発生した土砂災害の前に、近隣地域の前兆現象(小規模崩壊)を把握できる可能性があることが分かる。

図-2 ツイートによる災害状況の把握(平成26年8月広島豪雨災害)

また、平成26年(2014)8月豪雨による広島市の災害事例(図-2)の分析等により、ある程度人口規模が大きい地域では、ソーシャルセンサ情報(ツイッター情報)による前兆現象等の把握は相当程度有効であることが分かった。また、災害に関連するツイッター情報を見ることで、住民がおかれた状況における心情・心理等、地域住民の切迫した状況をとらえることができ、避難勧告・指示等の判断に役立つ可能性があることが分かってきている。住民からの通報や消防団等の現地を確認した者からの報告と比べると、個々のツイッター情報の信頼性は劣るが、迅速性に優れたツイッター情報は、現場からの第一報を受ける前に豪雨時の地域の状況を把握することが出来る可能性があるため、有効と考えられる。

2.SNS情報を活用した災害情報収集システムの開発
ソーシャルセンサから得られた情報を警戒・避難システムに活用するため、ツイッター情報を用いた災害情報収集システムの試作版を開発し、実際に防災担当者に試用してもらった上でユーザーインターフェース等のあり方の検討を行った。システムは豪雨時に状況把握を行うことを想定し、地図上で降雨状況とツイート場所・内容を確認できるようにするとともに、リアルタイムにTwitter情報をタイムラインで閲覧できる構成としている(図-3)。

図-3 土砂災害警戒避難への活用のイメージ

災害に関するツイッター情報には(1)気象や災害などの事象を直接表すもの(2)住民の不安感等の心情・心理を表すものがある。また、得られる本文、写真、GPSや推定されたツイート場所の情報により、情報の客観性、主観性が異なる。システムの試用により、防災対応の意思決定をする者を補佐する立場の者は、客観的な情報(現地状況を把握できる写真や本文、および場所情報)を重視して収集・報告している一方、意思決定者は、報告される客観的情報に加えて主観的な情報(住民の心情・心理等)も含めて意思決定を行っていることが推察され、情報収集システムは利用者層の役割やニーズに特化した機能・表示方法をとることが有効であることが分かった。

3.結論
土砂災害の被害軽減に向けて、現地の切迫した状況をツイッター情報から早期に把握し、警戒・避難に役立てるための国総研の果敢な取り組みについて紹介した。

平成23年(2011)東日本大震災でSNSが情報発信・共有・収集に活用されたことを機に、防災分野におけるSNS活用の取り組みが進められている。国土交通省においても、情報が不足しがちな災害対応初動時に災害の兆候や発生状況に関する推定情報を集約し、TEC-FORCE(緊急災害対策派遣隊)派遣等の自治体支援などの判断に活用するための取り組みが行われようとしている。今後は、SNS情報を実際の防災対応において活用しつつ、効果的に活用するための技術的な検討が進められることで、警戒・避難システムの高度化の一助となることが期待されている。

我が国初の流砂量年表の作成

山地河川における流砂量の観測データは、豪雨時及びその後の山地域からの土砂流出による被害軽減を目的とした砂防基本計画の精度向上、土砂移動に起因する問題解決を目的とした山地から海岸までの流砂系の一貫した総合的な土砂管理の推進のために最も基礎的な情報の1つである。しかしながら、山地河川においては一般的に、河床変動が激しい、大粒径から細粒分まで幅広い粒径の流砂が混在する、電源の確保等観測に必要なインフラの整備に多くの労力・費用がかかるなど流砂を連続的に直接観測するには数多くの困難をともなう。そのため、連続的に流砂量を観測した事例は必ずしも多くはなかった。(以下、土砂災害研究部砂防研究室・主任研究官内田太郎氏、同砂防研究室長桜井亘氏の論文「山地河川における流砂水文観測データの蓄積~我が国初の流砂量年表の作成~」から引用させていただく。同論文は「土木技術資料(2017年)」に掲載された。注目すべき内容である)。

図-4 ハイドロフォンの断面図

山地河川における連続的な流砂量観測手法として、連続計測が可能な音響データや振動データなどを用いて間接的に流砂量を観測・推定する手法について研究・技術開発が進められてきた。特に、1990年代以降、掃流砂に関してはハイドロフォンと呼ばれる観測機器(図-4)を用いた観測が行われてきた。ハイドロフォンは、掃流砂が鉄パイプに衝突する音を計測することにより、流砂量を推測する手法だ。また、濁度計を用いた浮遊砂の連続観測も実施されてきている)。

これらの技術的な進歩を踏まえて、平成24年(2012)に改訂された河川砂防技術基準(調査編)では、砂防事業を実施する山地河川において流砂観測を実施し、流砂量観測データを年表形式で示した流砂量年表をとりまとめることとなり、全国の直轄砂防事務所において流砂観測が進められてきている。

国総研砂防研究室では、近年取得された流砂水文観測のデータを取りまとめ河川砂防技術基準(調査編)において位置づけられた「流砂量年表」として、国総研資料886号「山地河川における流砂水文観測データ(平成21~25年度)」をとりまとめた。あわせて、近年の山地河川における流砂水文観測の成果や課題をとりとめた国総研資料887号を作成した。

<これまでの取り組み>
全国の国交省直轄砂防事務所では、流砂水文観測を特に平成21年ごろから精力的に進めてきている。しかし、山地河川における機器を用いた流砂量の連続観測の歴史は長くないため、観測手法についても、依然として、しばしば新しい課題が生じている。

国総研砂防研究室でも(1)山地河川の流砂観測に関する手引き等の作成(2)直轄砂防事務所の担当者を集めた勉強会の開催(3)ハイドロフォンによる衝突音の波形や濁度を流砂量に変換する手法の開発・改良・検証(4)効率的に流砂観測を進めるための体制の構築・技術開発を行ってきた。(2)の担当者を集めた勉強会は平成23年度以降毎年1回開催し、技術的課題や解決策の共有を進めてきている。

(4)の取り組みとしては、直轄砂防事務所と連携し、データの質の向上を図るために、異常データの有無などデータの精査を行い、事務所に精査結果をフィードバックするという体制でデータの蓄積を進めてきている。また、従来はデータロガーの容量の制約により概ね2週間に1回データ回収を行う必要があったが、観測現場で生データを流量データに変換することにより蓄積するデータの量を小さくできるプログラムを新たに開発し、データの回収頻度を大幅に削減できるようにした。

このような取り組みと全国の直轄砂防事務所の多大な努力が功を奏し、データが蓄積されてきている。さらに、データの蓄積のみならず、観測データを活用した土砂動態の解明に関する解析が進められてきている。しかし、全国のデータを一元的に整理するには至っていなかった。

図-5 流砂水文観測所の位置図

<流砂量年表の作成>
これらの経緯もあり、今回はじめて全国の山地河川における流砂観測データを一元的に整理し、流砂量年表にとりまとめた。今回対象としたのは、平成21~25年度(2009~13)までに実施された観測データである。対象観測箇所は全国の直轄砂防事務所で実施された流砂水文観測箇所のうち、図-5に位置を示した86箇所。本資料では(1)雨量(2)流量(3)濁度計による浮遊砂量観測(4)ハイドロフォンによる掃流砂量観測の4項目について整理した。

流砂量年表の作成にあたっては、はじめに機器の異常等によると考えられる異常データについて、極力取り除いた。その上で、日流砂量、月流砂量、年流砂量及び代表的な出水による流砂量を掃流砂量、浮遊砂量に分類して整理している。
                  

写真を拡大 図-6 試作版システムの画面・主な機能概要

山地河川の流砂観測については、データの蓄積をはかるとした第一段階の目的は達せられつつある。しかし、大出水時のデータや土砂生産後のデータなど十分に蓄積されていないデータもある。国総研砂防研究室では引き続き、流砂観測データの蓄積をはかり、継続的に流砂量年表の作成を進めていく予定だ。一方で、データの幅広い活用に向けた研究・技術開発も並行して進められている。例えば、流砂水文観測を用いて、土砂災害の切迫性に関する情報を提供し、より効果的な避難行動につなげる技術の開発を進めてきている(図-6)。同時に、能動的に土砂流出を調節する砂防堰堤の検討にも活用していく予定だ。
(謝辞:国総研土砂災害研究部から論文や資料の提供に多大なご協力・ご理解を頂いた)

(つづく)