【耐火物協会 創立70周年】鉄鋼業へ耐火物安定供給 高い技術力で鋼の品質支える

 耐火物メーカーの業界団体、耐火物協会が今年4月に創立70周年を迎える。耐火物は鉄鋼製造に欠かせない資材。耐火物業界は耐火レンガや不定形耐火物の生産・供給を通じて戦後鉄鋼業の発展に貢献してきた。耐火物メーカーはこの間、鉄鋼の製造現場で使われる耐火物の品質向上を追求。これが日本鉄鋼業の技術力の高さにつながった面もある。世界の耐火物業界では2000年以降、鉄鋼業界と同様、中国など新興国の追い上げが急だ。国際競争にさらされている日本鉄鋼業が今後も発展を続けていくうえで、耐火物業界の役割は大きい。(高田 潤)

 高炉や転炉、電気炉、コークス炉、焼結機など主に鉄鋼業の上工程設備で耐熱材として使われる耐火物――。耐火物業界は、鉄鋼業の生産・品質を支えながら、鉄鋼業とともに発展してきた。

 有力耐火物メーカーを含む35社が加盟する耐火物協会が「耐火煉瓦協会」の名称で発足したのは、第2次大戦後の1948年(昭和23年)4月1日。耐火レンガの統制事業を担っていた「炉材統制株式会社」が終戦とともに解散。耐火物の統制事業はその後、48年の連合軍司令部(GHQ)の閉鎖指定で姿を消した。しかし、当時は物資や燃料の確保がままならない時代。割り当てを確保するには何らかの団体が必要だった。そこで業界はGHQ指令の年、物資などの共同購入を目的に耐火煉瓦協会を設立した。

 当初は統制団体的性格が強かったが、その後、業界の親睦団体として発展。77年に「耐火物協会」に改称し、現在に至る。

鉄鋼増産で活況

 終戦後の1946年度で約65万トンだった粗鋼生産量が1000万トンを突破したのが56年度。その後は年々増加し、72年度には初めて1億トンの大台を突破した。鉄鋼の大増産を受けて、耐火物の需要も急増。60年代以降、耐火物の生産は急増する。

 鉄鋼向け耐火物の販売量が初めて100万トンを突破したのが60年度。これが70年度には倍増の217万トンに達した。高炉メーカーの増産に加え、平電炉メーカーの工場立ち上げなどが耐火レンガの需要を急激に押し上げた。耐火物メーカーは需要増に対応して、焼成炉などの設備を相次ぎ増設。鉄鋼メーカーへの安定供給を果たした。鉄鋼メーカーの間では当時、耐火レンガの争奪戦が激化。耐火物メーカーの注文は2年先まで埋まっていたという。

 しかし鉄鋼向け耐火物の販売量は70~73年度をピークに急激に下降していく。オイルショックが引き金となったほか、耐火物の品質向上、鉄鋼メーカーの使用技術の変化などによって耐火物の使用原単位が低下したためだ。

不定形耐火物の登場

 鉄鋼向け耐火物は、耐火レンガと呼ぶ定形耐火物と粉状の不定形耐火物に大別される。不定形耐火物は複数の耐火物原料をブレンドしたもので、製鉄所などの現場で水と混ぜて使う。

 築炉や炉の補修に使う耐火物は60年代まで、定形耐火物がすべてだった。日本で不定形の生産が始まったのは68年。その後、不定形のシェアは年々増加、80年代後半には逆転する。不定形が普及した背景には、転炉や取鍋など炉の補修で熱間吹き付け技術が発達したことに加え、築炉工の人手不足もあった。不定形はレンガを使うのに比べ炉前での作業時間を短縮できる。またコスト面でも有利だった。

 こうした変化に合わせる形で、耐火物メーカーは不定形の生産設備導入を進めたほか、原料のブレンド技術向上に努めた。協会も不定形の普及に対応、77年に「耐火煉瓦協会」から「耐火物協会」に名称変更した。

 不定形の普及と相前後して目立ってきたのが輸入耐火レンガの台頭。90年代に入ると、生産コストの安い中国などで生産して日本へ供給する動きが広がった。日本の大手耐火物メーカーが中国など海外へ進出したのもこの時期だ。

再編で活路

 バブル崩壊後の90年代は、鉄鋼業にとって冬の時代となった。耐火物業界も同様に厳しい局面に入る。

 鉄鋼向けの耐火物販売量は90年代に入ると100万~120万トンで推移。原単位の低下、輸入品の増加などが国内販売量の伸び悩みにつながった形だ。しかし、90年代後半になると販売量はさらに減少、100万トン割れが続く。

 耐火物メーカーは販売量の減少に直面し、要員削減、生産設備の集約など相次ぐ合理化を推進した。協会が発足した1948年当時の耐火物メーカーの従業員数(直接雇用)はおよそ2万6000人。現在はその6分の1以下の4000人程度だ。また企業数も70年の120社をピークに減り続け、現在はおよそ45社(16年)となっている。企業数の減少などが業界の合理化を物語っている。

 こうした中で企業再編の動きも相次いだ。代表的なのが2000年の黒崎播磨、09年の品川リフラクトリーズの誕生だ。黒崎播磨は黒崎窯業とハリマセラミックスの合併、品川リフラクトリーズは品川白煉瓦とJFE炉材(旧川崎炉材)の合併でそれぞれ発足した。このほかにも黒崎播磨による九州耐火煉瓦の子会社化などの動きもあった。

技術力の維持・強化が課題  

 日本鉄鋼業の強みは技術力の高さ。高級鋼を効率よく生産する技術が年々激化する国際競争に勝ち抜く源泉となっている。

 日本鉄鋼業の技術を陰で支えているのが耐火物業界だ。耐火物は鉄鋼の製造過程で、溶銑や溶鋼に直接触れる。この時、耐火物による鋼への介入があると、鋼材の品質に影響を与える。また、耐火物の耐久性が低下すると、鉄鋼業の生産コストを押し上げる要因となる。日本の耐火物メーカーはこうした課題に対応し、耐久性が高く、鋼の品質に影響を与えない耐火物の開発・実用化に取り組んできた。

 耐火物メーカーの技術力を支えているのが現場力と研究開発力の高さ。しかし、最近は多くのメーカーが人材確保に苦しむ。中国など新興国の台頭が著しいだけに、人材確保難は深刻だ。こうした課題は個企業での対応が基本だが、耐火物協会は06年、耐火物技術協会と共同で、大学の研究者らを対象にした助成制度を創設。企業の取り組みを側面支援している。

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