【記者日記】違法伐採、全国で相次ぐ

背景に行政チェックの甘さ

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無断伐採された林を訪れた瀬戸山光明さん(右)と被害者の会の海老原裕美会長=2017年11月18日、宮崎県日南市

 国内有数の木材産地・宮崎県と北海道など各地で昨年、所有者や管理自治体に無断で森林を伐採する「違法伐採」が疑われるケースが相次いだ。背景に浮かんだのは、木質バイオマスなどによる木材需要の伸びや行政のチェック体制の甘さ。後継者不足など林業を取り巻く環境が厳しい中、政府などの対策が急務となっている。(共同通信=宮崎支局・須賀達也)

 ▽辺り一面、木が全部ない

 「26年連続スギ素材生産量日本一」―宮崎県庁の掲示板には、誇らしげな大きな文字が並んでいる。その林業先進県に衝撃が走った。昨年10月に県警が、伐採届を偽造し所有者に無断で山林を伐採し盗んだ事件を摘発したためだ。

 捜査関係者に取材を重ねると、「立件されたのは氷山の一角」と対応が追いついていないことが分かった。県によると、2014年4月から昨年10月末までにスギを中心とする違法伐採被害の相談が計45件あった。伐採に関する手続きが複雑で詳細が分からず、放置されたものもあることから、実際の被害はもっと多いとみる。

 「辺り一面、木が全部なくなっている」。宮崎市の所有林が無断で伐採された海老原裕美さん(60)。衝撃的な光景を前に思わず言葉を失ったという。事態が表面化しても処分しないなど県や市町村の対応も遅く、自ら被害者の会を立ち上げた。

 新興国で横行する「盗伐」と同じ構図だとした上で「森林の所有者確認を怠った行政の落ち度もある。所有者だけ泣き寝入りするのはおかしい」と憤る。

 ▽同じ思いする被害者減らしたい

 私は被害者の会に同行し、違法伐採があったとされる現場をいくつか回った。宮崎県日南市の会社員瀬戸山光明さん(62)は、祖父の代から守ってきた林のスギ約400本を16年10月、無断伐採された。伐採業者が謝罪に訪れ、再造林の方針を決めるまで1年以上かかった。強引な伐採によって林は荒れたままで「同じ思いをする被害者を減らしたい」と力を込めた。

 全国の違法伐採について実態調査をする機関がないことに気づく。先行する報道など、かすかな手がかりを頼りに、各地の自治体に電話取材を続けた。森林伐採を巡って問題が相次いでいると感じ取った。

 北海道のニセコ積丹小樽海岸国定公園や周辺では地熱発電の調査名目で、昨年6~8月にハイマツなど約3千本が伐採。静岡県伊東市や兵庫県三田市では太陽光発電パネルの設置工事のために必要な手続きなく山林を開発していた。三重県や福島県など10以上の自治体で無許可伐採などがあった。

 ▽監視体制構築が急務

 戦後植林されたスギなどが伐採適齢期を迎え、大型木製パネル「CLT」など用途拡大も進む。林野庁によると、国内木材生産量は09年から16年で約5割増加。安価な輸入材に押されて一時は20%を割り込んだ木材自給率は、16年は34.8%と回復傾向にある。

 一方、10年の調査で林業従事者の平均年齢は52.1歳、高齢化率は21%と全産業平均を上回る状態だ。放置林が増える中、境界が不明となり違法伐採の温床になっているとの指摘もある。違法伐採が横行すれば産業の衰退につながりかねない。

 政府もこうした現状に危機感を持ち、16年に森林法を改正し各市町村が細かく所有状況を把握できる林地台帳の整備を義務付けるなど対策に乗り出した。しかし、現場からは「土地を一から調べるのは費用も膨大な手間もかかり、現実的でない」との不満も根強い。

 森林総合研究所の堀靖人研究ディレクターは「これまでは間伐が主で問題が顕在化していなかった。収穫期を迎え大規模伐採が急激に広がる中、行政の監視が追いついていない。体制の構築が急務だ」と指摘した。

 ▽取材を終えて

 林業にはなじみがないところから取材を始めた。「違法伐採」と聞いても、頭に浮かぶのは、熱帯林の破壊が進むマレーシアやフィリピンといった新興国の問題だけ。「まさか日本でも・・・」という驚きの連続だった。

 「森林の境界が分からない。誤っただけ」。取材中、多くの伐採業者らから何度も弁明を受けた。違法性を問うことは確かに難しいかもしれないが、突然木を失った被害者の存在を忘れてはならない。国土の67パーセントを占める森林がこれ以上荒らされることのないよう、注視していきたい。

木材国内生産量
無断伐採された宮崎県日南市の林で、被害を訴える瀬戸山光明さん=17年11月18日