2018長崎知事選 九州新幹線長崎ルート 全線フル案 財源捻出 横たわる難題

 近い将来、新幹線がスマートに疾走するはずの高架橋は少しずつ延びている。大村市内の竹松工区(約1・4キロ)では昨夏、土木工事が完了。後はレールを敷くだけとなった。県は25日、なかなか市民が見られない橋上部の写真をフェイスブック「よかばい!!長崎の土木」で発信した。

 九州新幹線長崎ルートのうち、長崎-武雄温泉(約67キロ)のフル規格区間は2008年度に工事が始まった。完成率は昨年末で54%。県新幹線事業対策室は「県内26工区だけでも工事に携わる人は数千人単位に上るはず」と巨大事業の経済効果を説く。在来線特急と新幹線を乗り継ぐ「リレー方式」による22年度暫定開業に間に合うよう、地道に進められている。

 ところが、在来線を活用する武雄温泉-新鳥栖(約51キロ)の方が順調ではない。フリーゲージトレイン(FGT、軌間可変電車)の開発が難航したことで、どんな整備方式にして、本格開業にこぎ着けるかが見通せなくなった。与党検討委員会は▽FGT▽全線フル▽ミニ新幹線-の整備費や収支採算性などの比較検討を求めており、国土交通省が本年度末までにまとめる。

 そんな停滞から抜け出そうと、県は昨夏に「大きな決断」(県幹部)をした。在来線を活用しない全線フル要求にかじを切り、JR九州関係者たちも「長崎から機運を盛り上げて」「フルしかない」といったエールを送る。県や県議会は知事選後間を置かず、政府・与党に直接要望する方向で調整している。

 ただ、難しいのは財源をどう捻出するか、さらには、財政負担増を理由に全線フルに否定的な佐賀県にどう受け入れてもらうかだ。

 知事選で現職の中村法道候補(67)は、この点をどうクリアしていくのかを具体的に示していない。長崎市内での2回の演説会でも言及することはなかった。

 今後、県は全線フルの優位性をデータで示し、佐賀に理解を求める構え。整備方式ごとの経済波及効果を試算する。「集計に時間がかかっている」(県新幹線・総合交通対策課)ものの、3月までに開催が見込まれる与党検討委の前に示す。ここで全線フルのメリットを際立たせる数字が出るのかが注目される。

 八江利春県議会議長は知事選の最中も、佐賀県議会や自民党佐賀県連の幹部に電話をかけた。「向こうの反応は『フルで良かよ』というものではない」としながらも「FGTが駄目なときはどうするのかという点は長崎、佐賀で話し合っていいはずだ」と折衝を続けるという。

 新人の原口敏彦候補(56)はFGT開発が暗礁に乗り上げたとして「見通しが立たないまま新幹線事業を進めた責任はどこに行ったのか」と現県政を批判。事業を凍結し「県民の声を聞くべきだ」と訴える。

九州新幹線長崎ルートのうち、昨年8月に完成した竹松工区の高架橋上部=大村市内(県提供)

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