【特集:F1マシンの誕生】デザインとは(1)設計のカギを握るのは風洞とCFDによるデータ収集

F1マシンの誕生

第3章:F1マシンのデザインとは
 最初のコンセプト作りから冬のバルセロナテストでの実走行まで、F1マシンの製作には1年以上の歳月がかけられる。第3章『F1マシンのデザインとは』では、ルノーのテクニカル・ディレクター、ニック・チェスターに、デザイン開発の各ステージと、そこで用いられるツールについて語ってもらった。

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その1:デザインのカギを握るふたつの要素
 ニューマシンのコンセプトが固まり、詳細な製作スケジュールが決まると、開発エンジニアたちはいよいよ全2万点のパーツの具体的な設計に取りかかる。

 ボディワークやモノコックといった主要コンポーネンツのデザインでは、『サイズ』と『剛性』が重要視される。『サイズ』は空力効率を最適化するため。そして『剛性』は、マシンの全体構造に十分な強度を持たせるためである。

 このふたつの要因は、パーツが車体の外側か内側かによって重要度は変わってくる。たとえばフロントウィングは何よりも空力性能に優れていなければならないが、同時に十分な強度も必要だ。一方でダンパーやステアリング関連、トランスミッション、ブレーキなどの足回りのパーツは、剛性と最低重量、機能性が優先される。

 空力デザイナーになくてはならないのが、風洞とCFD(コンピューター流体解析システム)である。

 CFDはいわばバーチャルな風洞である。車体の周囲を流れる空気を可視化し、流量を数値化するのが主な目的だ。何十何百ものアイデアをCFDに入れ、その中で最も有望な数種類のスケールモデルを製作し、風洞にかける。

 風洞テストでは至るところに取り付けられたセンサーによって、実走行にできるだけ近いデータを収集する。現状ではCFDを補完するものとして、風洞以上に優れたツールはない。

 風洞内に置かれるのは、実車の60%のスケールモデルである。風洞内ではブレーキング時のピッチング、コーナリング中のローリングなど、挙動変化の際の空力特性の変化も測定される。

 実走行にできるだけ近づけるため、スケールモデルはムービングベルト上に置かれる。空力エンジニアたちはあらゆる状況を考えた負荷を模型に掛け、データを収集する。ある一定のコンディションでのダウンフォース量がたとえ良好な数値を見せたとしても、実際のサーキット走行ではほとんど意味がないと考えるからである。

(第3章その2に続く)

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