無方向性電磁鋼板、需給ひっ迫 高級品輸出、100ドル規模の値上げへ

国内品薄で輸入は増加

 無方向性電磁鋼板(NO)の需給ひっ迫が続いている。電機や自動車など主要分野の需要が軒並み好調な一方、供給増の動きは限られ国内外ともに市場での品薄感は強い。新日鉄住金など高炉大手は国内での供給を優先しNOの輸出商談では大幅な値上げを図る構えだが、国内向けでも注文に応じ切れずユーザーが輸入材の調達を増やす傾向が強まっている。

 NOの用途は主に産業用モーターやセンサー、自動車部品、エアコンのコンプレッサだが、現状はこれらの需要が全て強い。生産工程の自動化ニーズが高まる中、ロボットや工作機械などファクトリーオートメーション(FA)機器が世界的に売れており、NO需要の先行指標となる日本工作機械工業会の受注統計は2017年に前年比32%増の1兆6456億円と10年ぶりに過去最高を記録した。日工会は18年の受注も1兆7千億円を見込んでおり、産業用モーター向けの需要は当面増え続けそうだ。

 エアコン向けのNOの需要も足元は不需要期ながら落ち込みが小さい。これまでは最も売れる夏季に向けて需要が増し、以降は減速して春ごろから再び盛り上がるのが季節パターンだったが、冬季のエアコン需要も増えており1年を通じ安定してNOが買い付けられるようになっている。

 エアコンは中国が最大市場だが、従来は石炭を燃やして暖を取っていたものが大気汚染対策で難しくなりエアコン導入のきっかけとなっている。エアコン性能の向上で冷暖房ともに使用できる国・地域が広がったことや、中国で2009年から始まった「家電下郷」で普及したものが買い替えの時期を迎えていることもエアコン向けNO需要につながっているようだ。

 自動車向けのNO需要も増加している。ハイブリッド車やこれから伸びてくる電気自動車(EV)だけでなくガソリン車でも自動ドアや車載用センサーなどでNOは使われており、自動車生産が世界全体で増えているのに伴い車向けNOの消費量も拡大している。EV向けも今後の生産本格化に向けた試作用でのNO需要が発現し始めており、NO市場に占める自動車の比率はさらに高まりそうな状況にある。

 一方、NOの生産能力を増強する動きは世界全体でも限られる。数少ない例の一つが中国宝武鋼鉄集団の湛江製鉄所(広東省)で昨夏に立ち上がった第2冷延系統の電磁鋼板工場(年産能力60万トン)だが、ユーザーの認証取得が途上で市場への影響は見られない。鋼材需給が引き締まっているため、数百万トン規模とされる中国の単圧系NOメーカーも原板の調達難で生産量が落ちているもようだ。

 新日鉄住金やJFEスチールには国内外からNOの引き合いが増えているが、ともに能力一杯で輸出向けの成約は絞らざるを得ない状況。日本勢が強みとする高級品のNO輸出では来期商談でトン当たり100ドル規模の値上げを視野に強気の交渉で臨める雰囲気にある。

 ただ国内向けを優先しても供給は追いついていない様子で、日本市場では徐々にNOの輸入材が増加傾向にある。これまでは年間3万~4万トンだったが17年は韓国、台湾、中国を中心に計6万3千トンが輸入され、過去最高を記録した。足元では7万~8万トンペースへとさらに増加基調にあり、需要増と能力不足が輸入鋼材の台頭を許す形になっている。

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