【特集】慰安婦テーマの絵本出版へ

未刊の1冊に懸けた思い

「コッハルモニ」韓国版を手にする絵本作家の田島征三さん(左)と「ころから」木瀬貴吉代表(1月)

 旧日本軍の従軍慰安婦がテーマの韓国人作家による絵本「コッハルモニ(花おばあさん)」の出版準備が進んでいる。「日・中・韓平和絵本」(11冊シリーズ)の1冊として3カ国で刊行される予定だったが、慰安婦問題の複雑さから、日本でだけ出版されていなかった。東京の出版社「ころから」が出版経費164万円のうち当初目標95万円の募金を1月24日に呼び掛けたところ、わずか4日間で目標金額が集まった。4月刊行を目指し、引き続きインターネット募金専門サイト「READYFOR」で出資を呼び掛けている。(共同通信=社会部・角南圭祐)

 ▽戦時性暴力訴える

 平和絵本の企画者の一人で、兵士の死をテーマにしたシリーズの1冊「ぼくのこえがきこえますか」を出した絵本作家の田島征三さんは「コッハルモニは女性の立場に寄り添う良い作品。これまで日本で出版できなかったのはナンセンスで、慰安婦問題だから出さないという社会は情けないし恥ずかしい。日本人にとってはうれしくない歴史だが、あったことをなかったことにはできない。僕たちにとって必要な本だ」と話す。

 平和絵本企画は、田島さんや、シリーズの1冊「へいわってどんなこと?」を出した絵本作家の浜田桂子さんらが2005年、中国・南京で3カ国の絵本作家を集め、1人1冊、新作を日中韓で共同出版すると決めた。日本版は童心社(東京)が担当した。

 中韓では10年、企画第1弾として韓国の絵本作家クォン・ユンドクさんによる、元慰安婦シム・ダリョンさん(10年に83歳で死去)の証言を基にした創作「コッハルモニ」が出た。少女が慰安所で働かされる様子を、シムさんが好きだった花の絵を多用して柔らかいタッチで描いた。日本軍が出てくるシーンもあるが、性暴力の場面は花を使い抽象的に描き、最後のページではベトナムのアオザイ姿の少女やイスラムの少女を登場させて、普遍的な戦時性暴力問題として訴えている。

 ▽「これはアート」

 童心社は、シリーズ中の10冊を出版したが「コッハルモニ」だけ「強制連行の場面や慰安所の場所など、史実とは言えない描写がある」と刊行しなかった。クォンさんは童心社などからの要請を受け入れ修正版も完成させたが、出版までたどり着かなかった。同社の酒井京子会長は取材に対し、「たとえ抗議や嫌がらせがあっても出版しようと覚悟を決めていた。しかし、事実と違う部分がたくさんあるので、出版はできないと考えた。クォンさんに、何度も修正を願い出たが、部分的な修正しか受け入れられなかった」と断念の理由を説明した。

 今回、田島さんや浜田さんが童心社に代わる出版社を探し、反差別に関する本を多く手掛ける「ころから」からの出版計画が決まった。童心社の指摘に対し、田島さんは「これはアートで、いちいちいちゃもんをつけることじゃない」と批判。「ころから」の木瀬貴吉代表は「この本の本質は、国境を越えた痛みの共有であって、日韓問題や慰安婦問題の教科書ではない。センシティブな問題だから出版できなくても仕方がないという社会になるのが怖い」と話している。クォンさんは取材に対し、「これまで出版できず、亡くなったシムさんに申し訳なかった。出版が決まり本当にうれしい。今こそ私たちは視野を広げて、戦争と女性、人権の話としてこの本と、出版までの過程を受け止めてほしい」と期待を込めている。

 慰安婦問題を巡っては11年、韓国人写真家の安世鴻さんが、慰安婦問題がテーマの写真展を開くため東京と大阪で「ニコンサロン」の使用を予約していたが、ニコン側が中止を通告した問題が起きた。東京では、使用を命じた東京地裁の仮処分決定を受けて開催できたが、大阪では別会場で開催した経緯がある。批判や抗議を恐れ、「表現の自由」を自粛する動きが相次げば、慰安婦問題はますますセンシティブになっていく。筆者はそう考える。

 募金は3月11日まで。4月に税抜き1800円で発売される予定。

「コッハルモニ」韓国版表紙
「コッハルモニ」最後のページ。ベトナムの少女とイスラム教徒の少女

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共同通信

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