善意の瞬発力

 記録的な大雪に見舞われた福井県坂井市にある餃子(ぎょうざ)の全国チェーン店。従業員もお客さんも食材の仕入れも雪に閉じ込められて臨時休業の店内で、厨房だ(ちゅうぼう)けがフル回転していた。道路沿いに立ち往生してしまった車のドライバーたちに料理を届けるためだ。その数500食、もちろん無料で▲他紙のデジタル版で見つけた記事。炊き出しを思いついたのは店に出ていた副店長、上司も快諾した。始めると人手が足りない。以前にアルバイトしていた近所の女性に声を掛けると、快く出勤に応じてくれた▲副店長は阪神大震災の時、兵庫の同じチェーン店のバイト店員だった。断水の最中、店長の発案で震災の当日、無理やり店を開けた。「あの日のお客さんの顔が忘れられない」▲これも大雪の福井。他の車と同じように動けなくなったパンメーカーの配送トラックは荷台を開放し、積み荷のパンを避難所や近くの車に配った▲降れば豪雨や豪雪-の「極端気象」が毎年どこかを襲う。思いつくままに自然災害を数え上げれば、すぐ指が足りなくなる平成の30年だが▲猛威にさらされ、立ち向かいながら「誰かのために」と思いを巡らせ、ためらわず行動する…善意の“瞬発力”は、いつも温かい光を放つ。この時代に私たちの社会が手に入れた最大の財産に思える。(智)

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