【特集】「フェイクニュース!」拡散にどう対応? 日米メディアの試行錯誤

質問する記者に指をさすトランプ米大統領=2017年、ニューヨーク(AP=共同)

 「ネット空間に広がる虚偽のニュースをどう見極めるか」をテーマにしたい。報道の世界を侵食するフェイクニュース。虚偽の情報の拡散にどう対応すべきか。政治家の発言の検証から始まったファクトチェックなど日米メディアの取り組みについて特集する。(共同通信=柴田友明)

 ▽爆発的な関心

 2月6日、来日したAP通信の上席副社長で編集主幹のサリー・バズビー氏が日本記者クラブで講演した。自らを批判する新聞やテレビを「フェイクニュース」と決めつけるトランプ大統領と米メディアの現状、「トランプ政権で報道機関が直面する課題」がテーマだった。質疑応答で、筆者はメディア、特にニュースサイトによるファクトチェックについてどう思うかを尋ねた。ホワイトハウス取材を指揮してきた米通信社幹部は、ファクトチェックという手法について「爆発的な関心」が高まっていると評し、持論を述べた。

 ―米大統領選をきっかけに、各新聞社やニュースサイトで(政治家の発言が事実か虚偽か)ファクトチェックする動きが高まっています。例えば、(検証サイトでは米最大手の)「ポリティファクト」の活動など、メディアでの動向をどのように受け止めていますか?

 「過去何十年にわたって、AP通信でも熱心にファクトチェックしてきました。例えば、大統領の政策スピーチで、(大統領選の)ディベートの場で何を言ったのか、それは事実であったのか、チェックを入れています。それに対する関心が爆発的に広がったのが、トランプ氏が大統領に就任して以来のことです」

 「米国ではファクトチェック自体が、リベラルなバイアスがかかっていると思われがちです。それを踏まえてファクトチェックも(発言内容を報じる記事)そのストーリーの中で検証します。例えばトランプ大統領が米国は世界で一番税率が高い国と言った時に、それが違っていたら、(記事で)指摘して、わざわざ別の記事として書かない方法を取ります。今はネットで最高のアクセス数に達するといったことに関心がいく風潮があり、ファクトチェックの記事は読者にとっては魅力的で、特に若い人の間では人気があります。これは報道機関としては興味深い。これがどういう形になっていくか、(私たちも)学びを深めている最中です」

 ▽“格付け記事”

 メディアとして最高権力者の言動のチェック、「権力の監視」に以前から力を尽くしてきた。それが私たちの責務でスタンス。トランプ大統領が就任して、新興のネットメディアによってファクトチェックされたニュースが高い関心を集め、その将来も見据えている。バズビー氏の回答は要約すれば、そんなところだろう。直近にファクトチェックを専門とする米ニュースサイトの当事者から米国事情を聞いただけに言わんとすることは理解できた。

 2月4日、東京都渋谷区のスマートニュースが入るビルのイベント会場で米ニュースサイト「ポリティファクト」のケイティ・サンダース副編集長が講演した。同社は、トランプ大統領のさまざまな発言のファクトチェック、格付け記事で注目されている。

 サンダース氏によると、ポリティファクトはトランプ氏ら公人が発する情報の真偽を6つに分類して発表している。「真実」「だいたい真実」「半分真実」「だいたいうそ」「うそ」「真っ赤なうそ」である。

 11年前にフロリダの新聞社によって設立され、政治家、公人の説明責任を問うことを目的に活動。現在、専属スタッフは10人。全米で最大規模の団体と説明してくれた。1つの事象についてスタッフ3人で判断し、書き手は常に証拠、根拠となるデータを求められ、緊張したやりとりの中で上記の6つのカテゴリーで格付け記事を発信しているということだ。

 米大統領選(2008年)をめぐる報道ではピュリツァー賞を受賞しており、ネットジャーナリズムで発言のウソを暴いていく手法は米国で確立されつつあるようだ。

 ▽SNSとの協力

 今回、サンダース氏は2017年6月に日本で発足した団体「ファクトチェック・イニシアティブ」(FIJ)が講師として招いた。FIJは昨年の衆院選で政治家の発信やSNS上の情報を検証するプロジェクトを実施。放送局や新聞社出身のジャーナリスト、学者、弁護士らで構成され、徐々に知名度を高めている。

 今回のサンダース氏の講演には全国紙の記者や筆者を含めメディア関連の関係者が多かったが、その中で参加した高校生がベテラン記者顔負けの質問で回答を引き出したのが新鮮な驚きだった。その高校生とサンダース氏とのやりとりを紹介する。

 ―ジャーナリスト志望の高校生です。フェイクニュースの拡散に追いつくための対策についてお聞きします。フェイクニュースは拡散しやすく、ファクトチェックの記事はかなり拡散しにくい。フェイクニュースの発信元に訂正を促すとか、ウェブサイトの発信以外に何をしているのでしょうか。

 「フェイクニュース対策としての一番大きな取り組みはフェイスブックとパートナーシップを直接結んでいることです。フェイスブックが自社のウェブ上のフェイクニュースをいち早くつかむことを支援。特定の期間、拡散して一番怪しげなニュースが何であるか、目星を付けた情報をフェイスブックが提供してくれます。実際にチェックするのは私たちです。チェックが済み、フェイスブックが効率よく、拡散したのと同じぐらいのスピードでファクトチェックの内容が拡散するように努力しています。難しい面もあるが、そのようなフェイクニュースに目印を付けることもしている。グーグルも検索の上位にフェイクニュースが並ばないように努めている。ツイッターはファクトチェックの団体と連携せずに独自路線でやっています」

 メディアをめぐる興味深い話である。今回の特集をイントロとして、次回以降もこのテーマを取り上げたい。

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 1月に入って、特集「ネット時代、『紙』の辞書へのこだわり」で10年ぶりに広辞苑を新刊、デジタル時代に挑む岩波書店辞典編集部の取り組みを取り上げた。その後、特集「谷川俊太郎さんの『詩の持つ力』」では先週まで3回にわたって天才詩人の生き方にスポットを当てた。今週は紙媒体や文芸とは対極的な話にした。

自社の活動を説明するポリティファクトのケイティ・サンダース副編集長=2018年2月4日、東京都渋谷区

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