自動運転カート型EVの実験 住民125人参加

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佐敷駅付近を走る自動運転車。運転手(右手前)がハンドルから手を離した状態で走行した=2017年10月1日、芦北町

 昨年10月、自動運転のカート型電気自動車(EV)が芦北町中心部を循環した。国土交通省の実証実験。運転手はハンドルから手を離したまま。専用道に入ると運転席は無人になった。「未来的ね」「本当に大丈夫?」。乗客からは興奮と、不安の声が上がった。

 自動運転はドライバー不足を補い、高齢化や過疎化が進む中山間地域で、人や物を低コストで運ぶ手段として期待される。芦北町は全国13カ所の実証実験の地に選ばれ、7日間の期間中、町民ら125人が参加した。

 実験で9カ所設けた停留所の一つ肥薩おれんじ鉄道佐敷駅は、路線バスが乗り入れ、町唯一のタクシー会社「芦北観光タクシー」も社屋を置く。町交通の要衝だが衰退は著しく、華々しい“近未来車”は周辺の寂しさをいっそう強調した。

 衰退の契機となったのは、2004年の九州新幹線鹿児島ルートの部分開業。同駅に停車する特急列車が廃止され、利用客が大きく減った。

 JR九州と第三セクター肥薩おれんじ鉄道(八代市)によると、同駅の乗降客数は新幹線部分開業前の03年度が約33万4千人だったのに対し、三セクが引き継いだ04年度は約29万人に急減。運行列車が「普通」と「快速」だけになり、町民の多くが「マイカーの方が早い」と判断した結果とみられる。

 実証実験のモニターを務めた上村フキ子さん(76)は、佐敷駅の裏に住むが「鉄道はほとんど利用しない」。名古屋市での暮らしが長く、約10年前に夫と帰郷。「都会に比べると、公共交通機関で好きな場所に行くことはできない」とマイカー中心の生活を送る。

 09年の南九州西回り自動車道の芦北インターチェンジ開通も、鉄道離れを助長したようだ。同鉄道は観光列車の投入などで経営努力を重ねるが、同駅の16年度の乗降客数は約20万人まで落ち込み、減少傾向は止まらない。

 町観光の柱の観光うたせ船や海水浴が退潮傾向の中での特急廃止は、芦北観光タクシーの経営悪化にも拍車をかけた。3代目社長の吉原慎一さん(54)は「列車が到着するたびに、客が駅からどっと出てくる光景が懐かしい」。特急廃止まで年間7万人ほどだったタクシーの利用客は現在、半分ほどだという。

 観光客が減る一方で、地元住民の買い物や通院など近距離利用は増えた。わずか100メートル先の病院への送迎や、介助の必要な高齢者も引き受ける。「住民の足を守る」という責任感からだ。

 「必要としてくれるお客のためにも、地道に会社存続の努力を続ける」。吉原社長は力を込めた。(福山聡一郎)

(2018年2月1日付 熊本日日新聞朝刊掲載)

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