メキシコで圧巻成績、DeNA乙坂が異国の地で受けた衝撃「人生で一番長い1か月」

メキシコでのウインターリーグで活躍をみせたDeNA・乙坂智【写真:荒川祐史】

「本当に困っていた」乙坂を親身になって助けてくれたメキシコの人々

 昨年11月11日から約1か月にわたり、メキシコでウインターリーグに参戦したDeNA乙坂智外野手。ヤキス・デ・オブレゴンの一員としてプレーし、27試合で打率.410、OPS.967と圧巻の成績を残した。真剣勝負の厳しさや必死になることの大切さ、そして野球をプレーできる幸せを感じて帰国した24歳だが、異国の地で何よりも心に響いたのは「人とのつながり」だという。 

「僕、本当に困っていたんで。英語も喋れるって感じじゃないし、本当にスペイン語なんて分からない。そういう時にチームメイトが助けてくれて、めちゃうれしかったです。感動しました」 

 滞在の初めと終わりの数日間は通訳も兼ねた日本人スタッフが同行したが、残りの期間は1人で過ごした。今回のウインターリーグ参加には、野球を上手くなりたいという思いと同時に、人間として成長したいという思いもあった。 

「野球だけだったら、近場の台湾とかでいいと思うんです。でも、野球だけやっていればいいのかって言ったら、そうじゃない。ゆくゆくはチームにいい影響を与える選手になりたい。そういう部分では、日本人がいないメキシコに1人で行けば逃げ道ないし、いろんなことが入ってくるんじゃないかなって思ったんです。 

 通訳がいるといないとでは、あっちの選手の受け入れ方も変わってくるだろうし、野球を終えた後でみんながどう過ごしているかも、すごく興味があったんですよ。野球だけじゃなくて、生活面でもラテンスタイルを知りたかったし。みんな全てにおいて弾丸の直球勝負でした(笑)」 

 思い切って飛び込んだ価値は大きかった。片言でもコミュニケーションを取ろうとする乙坂を、チームメイトもファンも、昔からの知り合いのように受け入れてくれた。

「人生で一番長い1か月」で「心臓が少し大きくなった感じ」

「日本に比べると、メキシコは物もないし、不便だし、治安もよくない。でも、だからこそみんなが助け合っている。1人1人の心がめっちゃ豊かでした。ファンもチームメイトも他のチームの人も、うわべだけじゃなくて、相手の気持ちを察してくれる。心から人を思うってこういうことなんだなって思いました。周りの人を大切にすることで、自分にも活力が沸いて元気になる。プラスの輪っていうのかな。その空間が広ければ広いほど、試合でもいいパフォーマンスが出てくるんじゃないかと思いました」 

「人生で一番長い1か月でした」と振り返るほど、苦しいこともキツかったこともある。脱走計画も2度立てたが、それでも朝になると心は球場へと向いた。それは瞬間瞬間を大切に、小さなことには囚われず、人とのつながりを大切にする現地の人々との触れあいがあったからだ。 

「メキシコ人って、みんなハッピーなんですよ。大変だったけど、すごく充電された感じはあります。なんか心臓が少し大きくなった感じ。キャパが広がるっていうんですかね、許容範囲が広がるっていうか。『死ななければいいんじゃない?』ってスタンスでいたら、大体のことは許せますね。 

 今までにない1か月でいろいろ経験したなって感じですね。経験して、キツかったなって(笑)。あとあと考えると、すごくいい時間だったなって思うんですけど、やってる最中はマジきつかった。それでも、他人を思うこと。それを知れたという部分で、自分は少し変わったのかなと思います。野球も勉強になりましたけど、そこが一番勉強になりました。僕、伝えるのが下手なんですけど、送り出してくれたチームのためにも、こういうことを還元していきたいなって思います」 

 2018年。プレーではもちろん、人間としても成長した乙坂が、チームにどんな影響を与えるのかにも注目したい。

(Full-Count編集部)

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