【世界から】スイスで大麻商品がブームの理由

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「ハンフテーケ」に並ぶCBD大麻のオイルや食品=岩澤里美撮影

 1年半ほど前から、チューリヒを中心にスイス国内でも乾燥大麻や大麻オイル、大麻を混ぜたパスタや甘くした大麻の種が、店頭で気軽に買えるようになった。大麻といっても、日本で禁止されているいわゆる、麻薬ではもちろんない。

 なぜなら、精神(脳)に作用して気分の高揚などを引き起こすテトラヒドロカンナビノール(THC)という成分は、ほとんど含まれていないから。購入できるようになったのは、依存性がないことに加え、副作用が少なく、健康に一役買うとされる成分であるカンナビジオール(CBD)を一定量(およそ5~20%)含んだ大麻だ。いわゆる「麻薬」と区別するため、流通している大麻を単にCBDと呼ぶことも多い。

▽熟睡できる

 チューリヒ中央駅から徒歩で15分、スイス国内で20店舗以上を構えるCBD販売大手の「ハンフテーケ」を訪ねた。白を基調として明るい店内の棚には白と緑のデザインが施されたパッケージのCBD商品がずらりと並ぶ。CBD風味のお茶や食用油、ミューズリー(シリアル)などの食品のほか、喫煙用の葉、小瓶に入ったオイル(中鎖脂肪酸=MTC=オイルにCBDエキスを混ぜたもの)もある。

 売れ筋は小瓶に入ったオイルで、直接口に垂らしたり、お茶に入れて飲んだりする。「年配の方たちが買っていくことが多いです。痛み止めにいいし、ぐっすり眠ることもできるからです」。自身もそのオイルを使っているという男性店員が教えてくれた。その店員は自転車の事故に遭って以来、気温によって強い痛みが走るようになったが、オイルを口にすると痛みが治まるという。

 私の義兄(60代)もファンになった一人だ。「CBDのお茶を飲むと気持ちが落ち着くし、よく眠れる。効用があって市販薬よりも絶対にいい」と言う。義兄は、数年前に心臓に不調が見つかって、健康には人一倍気を付けている。2012年に政府が実施した調査では、国民の4分の1が睡眠の問題(寝付けない、何度も目覚めるなど)を抱えているから、義兄のように試してみようという人も多いのかもしれない。

 スイスでは、THCの含有量が1%に満たないCBD大麻を販売することが11年に合法化された。

 大麻という植物には80種類以上の物質が含まれていて、そのままでは市場に出せない。製造者たちは違法にならないよう交配を繰り返して、THC1%を超えないCBD大麻を生産できるようになった。ハンフテーケで扱っているCBDは、すべて国内産だ。

▽一袋1万円超の商品も

 体調を整えるためにCBD商品を求める人がいる一方、喫煙して味覚を楽しむために買う人も多い。喫煙用の葉を目玉商品にしたスイス初のCBDショップ「ビオカン」がチューリヒにオープンしたときには話題になった。

 スイス国内に4店舗、オーストリアに1店舗を構える「グリーン・パッション」も主力商品は喫煙用の葉だ。風味は赤ワイン、イチゴ、チーズケーキ、オレンジのつぼみ、紫の煙など17種類で、瓶に入れた見本が並んでいた。風味によって値段は違うが、大体が7~8グラムで約1万1500円。タバコと同様の扱いで、健康への害を知らせる警告表示がパッケージにしっかり書いてある。

 同店では、客のほとんどが男性だという。私が店員に話を聞いている間も、男性客が1人、また1人とやってきた。「どれか風味を試しますか、それとも、もうおわかりですか」と尋ねた女性店員に「いえ大丈夫です。△△風味を」と答えていたので、きっと常連客なのだろう。

 喫煙用にCBDを求める人は増えているようだ。最近は専門店だけでなく、スーパーやキオスクでも販売している。

▽若者を守るため?

 スイス政府がCBD大麻を合法化したのは、違法大麻の消費が多いことが関係している。同国保健局の調査結果「スイス違法麻薬の消費2016年」によると、15歳以上の男性でいままでに1回でも大麻を喫煙したことがあるのは38.9%、女性は29%で、15~24歳(男女)で過去1年間に1回以上喫煙した人の割合は22%だった。保健局は、大麻喫煙は若者の間の現象だと指摘している。

 とは言え、麻薬大麻の替わりにCBDを喫煙すれば、事態が収まるとはいえない。麻薬、アルコール、タバコ依存防止につとめる団体「ズーフト・シュヴァイツ」も指摘しているように、CBDを喫煙した場合の長期的な害または効果についての研究はまだないのだ。

 CBD喫煙に賛成ではない一般の人もいる。昨秋、私の住むマンションで、誰かがベランダで定期的にCBDを喫煙し始めた。独特の香りのため、気付いた人も多かったらしい。しばらくしてから苦情の張り紙が出て、その後、家主から全入居者に「CBD喫煙は禁止」と通知が届いた。

 ベジタリアンや和食人気、フィットネスやヨガのブームなど、スイス人の健康志向はここ数年、目に見えて強くなっている。CBDの喫煙者がますます増えるとともに、化学的ではないナチュラルなCBD食品の消費も増えていくのかもしれない。(スイス在住ジャーナリスト、岩澤里美=共同通信特約)

バニラ、シナモン、砂糖で風味をつけたCBDの種。1箱100グラム入りで約500円だ=岩澤里美撮影
「グリーン・パッション」では、主に喫煙用の葉を販売している=岩澤里美撮影