【特集/CLラウンド16プレビュー#5】得点源を失ったベシクタシュ バイエルンの8強進出は堅い  

現在のバイエルンに不安要素はない。 ラウンド16は通過点に過ぎない photo/Getty Images
エースがいなくなったベシクタ シュ。苦戦は避けられないか…… photo/Getty Images

準備万端のバイエルン すでに相手を分析済み  

シーズン当初のバイエルンはカルロ・アンチェロッティ前監督が思い描く最先端のサッカーをピッチで具現化できず、良質な選手たちが力を持て余していた。ブンデスリーガでは第7節を終えて4勝2分け1敗、CLグループリーグでは第2節PSG戦に0-3で完敗するなど、バイエルンにしては不本意な戦いを続けていた。ただ、ドイツ最強のビッグクラブは判断力、決断力に優れ、嫌な雰囲気を感じ取ってすぐに動いた。ピンチを救うべく招聘されたのはクラブを知り尽くしたユップ・ハインケス監督で、バイエルンは老将のもと “沈み”の期間を最小限に押さえることに成功した。以降、白星を積み重ね、現在はブンデスリーガでは2位に勝点13差(第19節終了時) をつけている。CLグループリーグでも第3節から4連勝でラウンド16進出を決めてみせた。そういえば不調な時期もあったが、バイエルンはすでに平常運転である。

たしかにベシクタシュはやっかいな相手だ。トルコリーグでは3連覇を狙っており、CLグループリーグではポルト、ライプツィヒ、モナコという曲者揃いのなか、4勝2分けの無敗で首位通過している。ラウンド16の対戦相手が決定したときに、「ベシクタシュがどれだけ強いか十分に理解している」とクラブのオフィシャルサイトにコメントしたのは、 今シーズンからスポーツディレクターを務めるハサン・サリハミジッチ であり、決して油断できない相手なのは間違いない。

一方で、この組分けを悪くないと判断している選手も多い。「この抽選結果には喜んでいる」(トーマス・ ミュラー)。「対戦リストをみるともっと強敵と対戦する可能性もあった。 良い抽選結果だと思う」(ヨシュア・ キミッヒ)。なぜこうした感想になったかといえば、ベシクタシュがグループリーグでライプツィヒと対戦しているからだ。 サリハミジッチによれば、ライプツィヒと同組だったためバイエルンのスカウトはベシクタシュの動向も追っていたという。つまり、十分なデータを持って第1戦のホームゲー ムを迎えられるわけで、これが自信に繋がっている。無論、異様な盛り上がりをみせるイスタンブールでの第2戦は完全敵地のなか難しい戦いを強いられることが予想されるが、これに関しても情報を入手している。「敵地(イスタンブール)は凄まじい雰囲気だったとライプツィヒの選手から聞いたよ」と語るのはキミッヒである。また、バイエルンの選手たちは過去に幾多の難しい試合を経験してきた選手ばかりだ。アリエン・ロッベンは「トルコの雰囲気は常にすごいが、ボクらはそれに適応することが可能だ」と言葉を残している。一般論として第2戦がアウェイなのは間違いなく戦いにくいが、相手の情報 をしっかり仕入れて準備万端で臨むバイエルンにスキはなさそうだ。

ベシクタシュに必要なのはエース放出の穴埋め

ベシクタシュの得点源だったジェンク・トスンが今冬にエヴァートンへ移籍したのも、バイエルンにとっては追い風となる。ジェンクはCLグループリーグでチーム最多の4得点、トルコリーグでもやはりチームでもっとも多くのゴールを記録しており (第17節を終えて8得点)、ベシクタシュは早急にこのエースの穴を埋めなければならない。既存の選手で可能な選択肢はおそらく2つで、アルバロ・ネグレド、 リカルド・クアレスマのどちらかを前線に起用することだ。ネグレドだった場合はクアレスマが3トップの右サイドに入り、クアレスマが前線を務める場合はイェレマイン・レンス が右サイドに入るだろう。左サイドに関しては、突発的なケガがない限りライアン・バベルとなる。

3トップについて数名の名前を列挙したが、ひとつの事実に気づくことができる。ネグレド、クアレスマ、 レンス、バベルはいずれもオーバー30で、豊富な経験はあるがスピードや身体のキレに関しては全盛期ほどではない。最終ラインのペペ、 デュシュコ・トシッチ、ギョクハン・ ギョニュル、アドリアーノ。さらには 守備的MFのアティバ・ハッチソン もオーバー30で、ベシクタシュは平均年齢が高い。相手との駆け引き、試合の運び方などには優れるが、連続攻撃を仕掛けて強引にゴールをこじ開けたり、勢いで相手を圧倒したりするチームではない。 そのため、守備を固められると苦戦するケースがある。CLグループリーグの結果をみても、アウェイで3勝しながらホーム では1勝2分けだった。相手が積極的に攻撃を仕掛けてくるアウェ イではカウンターからチャンスを作ることができたが、守備的な戦いを挑んでくるホームでは攻めあぐねることが多かった。そもそも、クアレスマ、バベルという攻撃陣の顔ぶれをみればボールをキープして主導権を握り、攻撃をビルドアップするというスタイルには適していないことがわかる。ある程度相手に攻めさせ、ボー ルを奪ったら攻撃的MFのタリスカ+3トップで素早くゴールを目指す。これが得点パターンであり、グルー プリーグではアウェイでの勝点奪取に繋がっていた。すなわち、迎えるバイエルンとのラウンド16でもベシクタシュには第1戦のアウェイゲームに戦いにくさ、苦手だという意識はなく、むしろ本来の力を発揮できると考えているだろう。  

とはいえ、選手個々のクオリティ、チームの完成度、大舞台での経験などあらゆる要素でバイエルン が大きく上回っており、いかにベシクタシュが試合巧者だったとしても下馬評を覆すとは考えにくい。波乱はなく、バイエルンが8強入りを果たす可能性が高い。

文/飯塚健司
サッカー専門誌記者を経て、2000年に独立。日本代表を追い続け、W杯は98年より5大会連続取材中。日本スポーツプレス協会、国際スポーツプレス協会会員。サンケイスポーツで「飯塚健司の儲カルチョ」を連載中。美術検定3級。Twitterアカウント : scifo10

theWORLD194号 2018年1月23日配信の記事より転載

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