「リレーコラム」必然だった「フォースダウン・ギャンブル」 イーグルスが残したスーパーボウルの教訓

第4クオーター、決勝のTDを決めるイーグルスのTEアーツ=ミネアポリス(ロイター=共同)

 スーパーボウル史上に残るその作戦は、本拠地フィラデルフィアの略称を冠して「フィリー・スペシャル」と名付けられていた。

 2月4日、ミネアポリスで行われた米プロフットボールNFLの頂点を決める大一番でイーグルスの勝利を引き寄せた渾身のトリックプレーだ。

 15―12の前半終了間際、敵陣1ヤードで迎えた第4ダウンだった。

 普段はパスの投げ手のQBニック・フォールズがエンドゾーン右側に忍び込む。虚を突かれた守備陣は対応できない。そこにTEトレイ・バートンからのパスが舞い込んだ。

 このプレーが特筆すべきなのは、ただのTDでなく第4ダウンで奪ったものだからだ。

 規定の距離を進めなければ攻守が交代する第4ダウンでの強攻策は「フォースダウン・ギャンブル」と呼ばれる。失敗すれば0点。無難にFGを蹴り、3点でよしとする選択肢もあった。

 実際、後にNFL公式サイトが公開した映像では「考えるまでもない。絶対に(強攻策は)やってこない」とサイドラインで話す相手選手の声が拾われている。

 しかし、イーグルスは攻め、直後のキックと合わせて7点をもぎ取った。ダグ・ピーダーソン監督(50)は「選手、コーチ、そして自分の直感を信じている」と相次いだ積極的な采配を振り返った。

 本当にただの直感だろうか。決戦の前々日、久しぶりに再会した幼なじみとの夕食の席で私は「イーグルスの第4ダウンは見どころかもよ」と話していた。

 先見の明はない。2月2日付のニューヨーク・タイムズ紙電子版の記事を読んでいたからだ。

 要旨はこうだ。

 「イーグルスはデータ分析を専門とするEdjスポーツ社の力を借り、チーム編成から試合中の戦略までを見つめ直してきた。その結果、多くのチームが統計的に『明らかなミス』とみられる戦略を取る第4ダウンで強攻策を多用し、勝つ確率を高めてきた。特徴的なのは、試合終盤の劣勢の場面だけでなく前半からでも勝負に出る点。そして作戦も、ごく短い距離を確実に稼ぐプレーだけでなく、パスを含めて多岐にわたる」

 Edjスポーツの母体を生んだフランク・フリーゴ共同創設者によれば「スーパーボウルに進出したのには訳がある」というのだ。

 試合では第4クオーターにも「フィリー・スペシャル」と同様に重要な第4ダウンがあった。

 32―33と試合をひっくり返されて迎えた残り5分39秒。自陣45ヤードからの攻撃で、イーグルスが残り1ヤードの“ギャンブル”をパスで成功させたのだ。

 約3分後、フォールズからTEザック・アーツに値千金の逆転TDパスが通る。

 そして、昨季の地区最下位チームが王者ペイトリオッツを破る下克上が完成した。ギャンブルが必然で、無難が「明らかなミス」となり得ると心得た就任2年目の監督の下で。

 初優勝の翌日、ピーダーソン監督は記者会見でこんな言葉を残し、氷点下のミネアポリスを後にした。

 「スポーツからは人生の教訓を得られることがある」

 芹澤 渉(せりざわ・わたる)1980年生まれ、東京都出身。週刊誌編集者を経て2008年末から共同通信。阪神、ヤクルト、楽天など主にプロ野球を担当し、17年1月からアーリントン支局で大リーグを中心に取材している。

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