シルク産業、再興へ 横浜・戸塚の企業が奮闘 美容切り口に商品

 安価な海外商品に押され国内の絹関連産業が斜陽化する中、「美容」の切り口でシルク産業を再興しようと横浜の企業が奮闘している。絹を原材料に自社で開発、製造した道具や化粧品を利用したエステティックで肌の力を取り戻す「絹美容」を打ち出すのは「mayunowa」(横浜市戸塚区)。日本の伝統技術と最先端の医療技術を融合した美容法として、国内はもとより、美容大国・フランスでの普及も目指す。同社の横山結子代表は「横浜からシルクの魅力を発信したい」と意気込んでいる。

 絹は水溶性タンパク質のセリシンで覆われている。同成分は人体との親和性が高く、医療用の研究も進む。絹美容はこの特性に着目し、肌の常在菌のバランスを整え肌を健康にすることを目指す。

 同社は、群馬県の製糸業者の生糸を使い、熊野筆で有名な広島県の筆製造業者と肌ブラシを共同開発。濡らして肌をなでると乱れた角質を取り去り、溶けた成分が肌を保護するという。

 化粧品は、絹を使った医療用原料を信州大学と共同開発する企業からシルクパウダーを仕入れ、肌の常在菌を活性化させる乳酸菌分泌物も混ぜながら自社施設で製造。他の原料も原則国産、無農薬にこだわり、防腐剤を加えず、使う直前に水などと混ぜて使用する。

 これらの効果を、エステティックの手技で顧客に提供するのが絹美容だ。特許も出願中で、施術者の育成も行っている。

 絹に着目したきっかけは、横山さんの経験にある。エステティシャンとして働くうち、全身にアレルギー症状が出てしまったという。「最先端の化粧品を使っていたのに。それなら、昔から肌に使われている物はどうなのかと思った」。文献を調べると、絹の真綿で肌を磨くときれいになった、という記述を見つけ、興味を持った。

 一方、東洋哲学の講座で知り合ったのが、元エンジニアの松岡正晃さん。松岡さんも健康と自然にかかわるものづくりを模索しており、意気投合した二人は絹産業の現場を巡った。そこで、かつて日本が世界に誇った絹産業が、効率化のために海外に技術を移転するなどした結果、衰退したことを知った。「絹産業が積み上げてきたものを次の世代に伝えたい」との思いが生まれたという。

 業界との関係ができる中で、2014年に肌ブラシを開発。15年1月には同社を設立し、5月、美容を通して絹産業の未来を考えようと、業界関係者に声をかけ「日本絹美容協会」を発足した。化粧品の製造販売業者の資格も取得。シルクパウダーは活動の過程で趣旨に賛同した企業から特別に仕入れることができた。

 絹美容は、横浜企業経営支援財団(IDEC横浜)の支援を受け、横浜市の認定する「横浜知財みらい企業」にも認定された。17年末には、IDEC横浜の支援でパリでプロの美容家を集め、絹美容を披露。今月末にパリから美容法を学ぼうと美容家が来日するなど、現地の関心も高まっているという。

 14日からは、認知度を広げるため、同社のホームページでホームケア用に肌ブラシのインターネット通販も始めた。松岡さんは「美容で裾野を広げ、シルクへの注目と流通も起きれば」と思い描いている。

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