長崎県庁舎移転1ヵ月 跡地周辺 疲弊を懸念 売り上げ半減の店舗も

 長崎県庁舎が長崎市江戸町から尾上町に移転して1カ月が過ぎた。職員数千人の行き来がなくなった跡地周辺からは「このままでは疲弊してしまう」と懸念が漏れる。にぎわいの拠点として“再出発”を心待ちにする地域の声を集めた。

 「ゴーストタウンになってしまった。寂しいもんよ」。旧庁舎近くの自営業、三瀬清一朗さん(82)はため息をついた。昨年末までは、昼食に出掛ける職員ら約100人が横断歩道で信号待ちするのが日常の光景だったが、今はない。

 旧庁舎の敷地入り口は高さ2メートル超のフェンスでふさがれ、人や車の出入りは途絶えた。通り掛かった主婦、浜田富子さん(79)は「閑散とした雰囲気になったね」。そばにあった県警本部も移転し、以前働いていたという女性(62)は「思い入れがある。常ににぎわう場所であってほしい」と話した。

 周辺の店舗は打撃を受けた。昼食を買う県職員が来なくなったコンビニは、従業員を4人から3人に減らした。洋食店はそれまで県職員でにぎわい、他の客を断ることも少なくなかったが、庁舎移転後は売り上げが半減。「まともに考えれば営業できる状態ではない」と肩を落とし、「しばらく様子を見る。最終手段は店をどこかに移し、客の開拓から始めるしかない」

 旧庁舎から徒歩圏内の歓楽街にも不安が漂う。銅座町商店街組合の城尾忠明会長は、最近の荒天続きもあって庁舎移転の影響を測りかねているが、「もともと団体客の予約数は減少傾向。これ以上減ってしまうのか…」と表情は硬い。

 市中心部の一等地がどう活用されるのか市民の関心は高い。だが県は活用策の一つにホールを挙げつつ、市のMICE(コンベンション)機能を中核とする複合施設整備計画との重複を懸念し、整備方針策定を先送りしている。さらに、市が2月定例市議会へのMICE整備予算計上を見送った。市は2021年の開業スケジュールを変えない構えだが、県は「もう少し推移を見守る」としており、先行きは不透明だ。

 三瀬さんらからは「活用策について早く何らかの方向性を示してほしい」と切実な声が上がっている。

人通りが少なくなった旧庁舎周辺では、地域の疲弊を懸念する声が聞かれる=長崎市江戸町

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