「助けて」言えぬ男性高齢者 妻遺体放置事件 地域とつながり薄く孤立 佐世保

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 長崎県佐世保市の民家で亡くなった妻(79)の遺体を放置したとして、死体遺棄の疑いで同居していた夫(82)が1月に逮捕された。約半年にわたり周囲に気付かれなかった妻の死。背景の一つに夫の「孤立」があったとされる。事件の周辺をたどり、近年問題化する男性高齢者の孤立の現状と、高齢者の見守りの在り方について考えた。

 雪交じりの風が吹いていた。1月下旬の夕方。青や緑、ピンクなどカラフルな壁の家が並ぶ佐世保市内の住宅街。その家も明るい色をまとっていた。だが家を囲うブロックや木の柵は崩れ、屋根のビニールが破れたガレージには空き缶やペットボトル、壊れた傘が散乱。そこだけ時間の流れが止まっているようだった。

 事件の発覚は1月19日午後。夫婦の家を訪ねた親戚が、居間に横たわっている妻の遺体を発見した。遺体は腐敗して一部が白骨化。夫は「昨年7月に妻が亡くなり、そのままにしていた」などと供述。捜査関係者は「親戚とは疎遠だったようだ。年に一度、会いに来ればいい方なくらい」と話す。

 夫は元公務員。妻は足が不自由だったが、近所のスーパーで縫製の仕事をしていたという。2人の息子は独立して県外で暮らしていた。数年前まで自治会費を集めるために訪ねていた女性(40)は「明るい感じでしっかり受け答えをしてくれる普通の夫婦だった」と振り返る。

 だが、2年ほど前から妻の姿を見る人はいなくなった。夫は朝早くバスに乗って出掛け、夕暮れに帰るところを度々見かけられた。行き先の一つは近くのスーパー。店内の椅子に1人で座って過ごしている様子を見た人もいた。  「奥さんは寝たきりで出歩けないのだろうか」。自治会長の男性(84)はそのころから毎月夫を訪問。妻に要介護認定を受けさせ、生活の手助けをしてもらうことを勧めた。だが夫は「私が見てるんだから」と怒り、「もうよかって」とドアをピシャリと閉めた。次第に留守がちで会えないことが増えた。「無理やりでも家の中を見ておけばよかった。でもそういうわけにもいかないでしょう」

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 2017年1月現在の県内の高齢化率は30%。高齢化に拍車が掛かる中、男性高齢者は女性よりも孤立しがちだ。17年版の高齢社会白書では、居住する地域での付き合いについて「あまり付き合っていない」と「全く付き合ってない」と答えた60歳以上の高齢者の合計は、女性の19・8%に対し男性は25・3%に上る。

 地域で高齢者を見守る取り組みでも、男性ならではの難しさに直面する場面がある。

 「男性のニーズは気付きにくい」。高齢者宅を訪れ安否や健康状態を確認しているグループホームひだまり(東彼波佐見町)の村岡勇輔代表(34)は明かす。ゲートボールや老人会、デイケアなどさまざまな場所に積極的に顔を出す女性は情報をつかみやすいが、男性はその機会が少ないという。「(孤立するリスクが高い高齢者など)民生委員が関わるような人にこちらからアプローチをしている。民生委員頼りの状態だ」とする。

 だが精神的負担や担い手不足など民生委員を取り巻く状況も厳しい。佐世保市民生委員児童委員協議会連合会の林俊孝会長(72)は「大変なのは個人情報の意識が根付きすぎていることだ」と指摘する。家の中に入れてくれないことや、隣の家の情報を知らない人も多い。だが「遠慮してはいけない。地域は踏み込まなければいけないときもある」と強調。「みんなが地域のアンテナ。危機感を共有しなければ」と警鐘を鳴らす。

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 自治会長の男性は事件後、地域の高齢者に会いに行き、声を掛けることを始めた。「一人でも見る人がいたほうがいいから。もう二度とこんな事件を起こしたくない」。そう静かに語った。  夫は現在、認知症などの有無を調べるため鑑定留置されている。

柵が閉じられ、物が散乱する夫婦の自宅ガレージ。夫はどんな思いを抱え地域との間に壁をつくったのか=佐世保市内