【新日鉄住金の業績動向】〈榮敏治副社長〉下期にかけ実力経常益拡大 グループ会社の収益改善

――通期経常利益見通しは7割増益の3千億円で据え置きました。半期ごとの経常利益は上期1576億円、下期1424億円となっていますが下期をどうみていますか?

 「経常利益は上期より下期の方が減っているが、これは在庫評価差の影響などであり、実質的には下期増益となる」

 「10~12月から1~3月にかけて粗鋼生産量が増えるが、上期と下期の比較でも下期増産となる。マージンも主原料上昇分をカバーし下期に改善する。ただ市況原料の高騰に対してはカバーし切れておらず、マージン改善はその分は目減りする」

新日鉄住金・榮副社長

――通期の実力経常益は。

 「前期の実力経常益は2200億円程度だったが、今期は通期見通し3千億円から一過性要因740億円を引いた2300億円程度が実力経常益と考えている」

 「現在の好況を生かし切れていないという点で不十分な利益レベルになっている。設備トラブルなどで、注文はあるのに数量面でそれに応えられていない。上期には大分製鉄所火災による厚板減産があり、下期は台風影響に伴う高炉不調などによる生産減や工事の日程延長に伴う生産減などが発生した。同業他社が鉄鋼事業の収益を上方修正している中で、当社は通期見通し3千億円を据え置いた」

――韓国ポスコや中国の宝武鋼鉄などアジアの大手ミルと比較した収益格差について。

 「先ほど申し上げた減産要因に加え、日本国内の鋼材価格が国際比価で低位にとどまっていることも海外大手ミルとの収益格差の要因の一つだと考えている。特にヒモ付き価格について顕著であり、マージン改善度合いを見てもヒモ付き価格の改善が店売りに比べて遅れている」

 「欧米や東アジア内の他地域と比べて、日本のヒモ付き価格は低迷が目立っている。そのために、原料価格上昇の転嫁とは別に、今年度はトン5千円のマージン改善を打ち出し、必死に取り組んでいる」

――現時点でのマージン改善5千円の進み具合は?

 「店売り価格については、5千円が浸透しつつある。ヒモ付きはまだ下期の価格交渉が決着していないが、足元では物足りないレベルにとどまっている」

――原料価格の転嫁については2017年度初め(16年度末)の時点で、(値上げの高さとしては)トン2万円の値上げにほぼ到達し、17年度を通じて面積でのマージン確保が課題でした。それは実現できているものの、17年度中で従来の主原料とは別に、市況原料(副原料)分のマージン改善が課題となってきました。

 「従来、販価と原料価格との差であるマージンは、主原料を中心に考えてきた。ただ17年度は、市況原料と呼ばれるマンガン、亜鉛、アルミ、油、鉄スクラップなどの価格上昇によるコストアップが数百億円規模に膨らんでおり、この先も高止まりが続きそうだ。そのため、18年度は市況原料急騰等をカバーすべく、鋼材価格の改定を考えていく必要がある」

――そうした取り組みに加え、今年度のような生産トラブルによる減産要因が解消すれば、来期の増益が視野に入りますね。

 「実力損益を上期と下期で分けて考えると、上期が年率1700億円程度で下期見通しが年率2700億円程度だ。来期を見通すのはこれからの作業だが、下期見通しの年率2700億円程度を発射台にして(1)生産数量回復(2)市況原料急騰に対する価格転嫁を進めることによるマージン改善(3)コスト削減―が増益要因として考えられる」

 「一方で、これまで設備投資資金を増やしており減価償却費用の増加が見込まれるほか、安定生産継続のための修繕費投入も高水準で続けていく。高度IT活用のためのシステム基盤整備など戦略的な投資を考えていく必要もある。これらは損益的にはマイナス要因となる」

 「プラスマイナス両面あるが、今年度3千億円程度を上回る経常益を目指したい」

――事業環境面での18年度のリスク要因は何ですか?

 「鋼材価格を考えると、中国鉄鋼業界の構造調整の進展がどうなるか注視している。鋼材価格上昇を受けて、再び増産となって国外への鋼材輸出が増えるようなことがあれば市況下落のリスクとなる。また年の後半にかけて、米国景気もよく見ていく必要がある。10年近くにわたり好況が続いているが、金融緩和の出口戦略を受けて、金利上昇や経済成長のスピードが緩むリスクはあると考えている」

 「為替は足元で1ドル=110円を切るような円高になっているが、当社の為替ポジションは受け取りと支払いがほぼニュートラルとなっていて、為替変動の直接の影響はあまり大きくはない。また需要家にとっても、この程度の円高であれば為替の変動が大きな収益変動要素になる可能性は低いのではないか」

インドやインドネシアの車鋼板合弁、黒字化目指す/エンジ事業「底は打った」

――鉄鋼事業のグループ会社の業績について伺いたい。

 「17年度も、グループ頼みの決算(収益)と言えなくもない。国内外とも軒並み前期比で改善している」

――国内は。

 「日新製鋼は通期経常益180億円の見通しとなっているが、これは今期の純増分だ」

――海外は。

 「業績貢献度が高いのは北米のAM/NSカルバートや原料権益など。中国のBNA社などもまずまず健闘している」

 「改善幅で言えば、ブラジルの改善が大きい。ウジミナスは17年1~3月期に11四半期ぶりに黒字転換し、年間でも黒字となり、改善幅は大きい」

――課題の残る海外プロジェクトは。

 「ブラジルでバローレック社との鋼管合弁であるVSB社は、コストを一段と下げてさらなる改善を目指したい。インドとインドネシアの自動車鋼板合弁は立ち上げ途上で赤字となっているが、数量を増やしながら黒字化を目指していく」

 「エネルギー向け鋼管の分野は、数量は回復しつつあるが、価格の戻りは遅れている。WTI原油は1バレル=60ドルが天井との前提で考えていく必要があるだろう。中国ミルの鋼管生産拡大もあり、石油会社が鋼管を高く買うような動きにはなりにくいのではないか。数量を少しずつ増やし、固定費負担を下げつつ変動費改善を進める」

――非鉄セグメントの利益動向は。

 「エンジニアリングは今期の経常利益見通しが60億円。前期の68億円から若干の減となっているが、受注高は増えており、底は打ったと考えている」

 「化学は、市況回復を受けて業績が大幅に改善している。前期経常益45億円から今期は140億円の見通しとなっている」

 「新素材は経常益20億円の見通しとほぼ前期並みであり、システムソリューションは前期の過去最高益(221億円)を上回る勢い(経常益230億円の見通し)だ」
(一柳 朋紀)

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