「員」の付く身に

 その昔、人材派遣大手の広告コピーにあった。〈職人は“人”です。会社員の“員”て何ですか〉。印象を言えば、職人さんは腕一本でやっていく感じ。会社員、公務員、銀行員-と「員」が付けば、枠に囲まれた、組織の中の私を思わせる。〈“員”て何ですか〉。「員」の付く誰かの、ぼやきかもしれない▲悲哀、ぼやきを自虐的な笑いに包み、流行語や時事ネタにくるんで、第一生命保険が先ごろ、恒例の「サラリーマン川柳」の入選100句を発表した。組織の中の私はつらい。〈上司にも 部下にも言えない 「ちがうだろ」〉▲働き方改革が問われている。仕事の効率を上げましょう、働き過ぎを改めましょう、と言われる。その結果、悲しいかな、〈効率化 進めて気づく 俺が無駄〉▲自虐ネタが笑うに笑えない句もある。〈AIが 俺の引退 早めそう〉。相手は人工知能(AI)、勝負は見えている-とすれば、近未来の実景かもしれない。諦めのような、投げやりのような▲折しも五輪の季節、苦節の先に地平を開いた選手の「全て報われた」という言葉が、偉業を成して「幸せ」という一言が、「員」の付く身にずしんとくる▲「サラ川(せん)」のぼやきをごく近くに感じながら、五輪に懸ける人たちの言葉が胸に熱く、余情は深く。物思いに日々誘われる。(徹)

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