埋もれた宝で港に活気を 採算度外視の買い取り販売  U30のコンパス22部「支え合う暮らし」(2)

佐賀漁港でアカエイの肝を手にする小田佳希さん=山口県平生町

 

 埋もれた海の宝で港に活気を取り戻したい―。瀬戸内海に面する山口県平生町(ひらおちょう)・佐賀漁港で、水産加工会社「小田水産」を営む小田佳希(おだ・よしき)さん(32)は、値が付かず漁師が捨てていた魚を積極的に買い取り、全国に販売している。採算度外視で進めた商売を支えるのは、揺るがぬ信念と故郷への強い思いだ。

 専門学校を卒業後、東京でヘアメークアーティストをしていた。東日本大震災で被災した宮城県の港町でボランティア活動をしたのを機に2011年4月、古里で家業を継ぐ決心をした。

 約8年ぶりに戻った実家には、差し押さえの赤い紙が家財道具に張られていた。資金繰りに窮し、操業停止の状態で「次につぶれるのは小田水産」とうわさされていた。港町は高齢化が進み、漁師の数も激減。にぎわいを失っていた。

 港に朝市を開き、活気を取り戻す活動を始めた。その収入を元手に平生でよく捕れるカタクチイワシを購入。いりこを生産して家業が再建できた14年ごろ、目をつけたのが「害魚」の活用だった。

 例えば、アサリなど貴重な漁業資源を食べてしまうアカエイ。網に掛かっても買い手が付かないため海に放し、増える一方だった。困り果てた漁師から相談を受け、それまで考えたこともなかった調理法を試してみた。

 肝をバターソテーにしたりごま油とあえてレバ刺しにしたりしてみると、濃厚な脂が舌の上で広がった。「まるで海のフォアグラ。これはいける」。商品化を思いついた。

 ただ、エイは死後、強烈なアンモニア臭がするため、新鮮で処理が適切でないと生食できない。地元に伝わる血抜き技術を応用した。でも最初は「誰がこんなの買うんじゃ」。買い取りを持ちかけても反応はなかった。

 販路も決まらないままだったが、真剣な姿勢は徐々に地元の漁師たちに伝わり、目を輝かせてエイを持ち込んでくれるまでに。ただ同然だった害魚の値段は上昇を続けている。「漁師と加工会社、小売業者の3者が得する価格を模索している。大切なのは持続可能な地元経済をつくること」

 旧知の水産学者の紹介などを頼りに販路も開拓。県外の卸売業者のほか、「規制が厳しい牛・豚レバーの代わりに」と食肉業者からも注文が来た。別の商品で元々取引があった中国・上海の企業にも今後、出荷する。

 「平生の漁師は楽しく働けてもうかる」。評判になれば若者も来てくれる。「俺はこれからも瀬戸内海と生きていきたい」

 

 ▽取材を終えて

 先日、小田さんと取引先との会合に同行させていただいた。「新商品出すんだけど、協力してくれん?」「ええよ」。既に信頼関係を築いているので、まるで世間話をするように商談がまとまった。エイ肝の次は、ハモの明太子やいりこ生産時に出る煮汁を再利用した「だしボトル」を考案中。発想が独創的なので最初は反対されるが、走りだすといつの間にか仲間が増えている。小田さんの底力を感じた。(共同=小島鷹之28歳)

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