「サッカーコラム」点取り屋が生まれにくい国民性

求められるのはゴール前のスペシャリスト 

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メキシコ五輪サッカー3位決定戦で、先制点を挙げた釜本邦茂(後方右)=1968年10月24日、アステカ競技場(共同)

 スポーツの現場に関わっているという職業柄だろう。平昌冬季五輪を見ながら強く感じたことは、トップアスリートといわれる人たちが行っているであろう恐ろしいまでの節制と努力だ。同時に、彼ら、彼女らがいかに禁欲的な生活を送ってきたを考えると、そのご褒美として各国のすべての選手に満足してほしいと素直に思う。

 スポーツは勝負事なので優劣のつくのは仕方がない。ミスもスポーツに含まれる要素だ。それでも、各選手がベストに近いパフォーマンスを発揮する中でメダルが決まっていけばいい。そう個人的には考えている。

 もちろん、自国の選手が勝つことを誰もが願っているだろう。しかし、自分のような“にわか応援団”よりも、普段から世界を共に転戦している選手同士のほうがその苦労を分かり合っている。スピードスケート500メートルのレース後の美しい光景。小平奈緒と李相花が見せた、世界の人々の心を揺さぶる交流には他者を寄せつけない気高さがあった。

 その五輪を見ながら印象に残ったことがある。競技種目は違っても、国民性はプレーに反映されるということだ。開催競技の中ではサッカーに最も近いアイスホッケー。女子日本代表「スマイルジャパン」の試合の解説を聞いていて、日本のサッカーと共通点があまりにも多いことに思わず笑ってしまった。彼女らの武器は「スピード」と「運動量」「組織的な守備」。一方で問題点は「得点力」。どこかで聞いたことのあるフレーズだ。

 アイスホッケーやサッカーに限らず、「ゴール」が設けられているスポーツにおいては、組織で守るのが基本だ。一方、攻撃はコンビネーションによる崩しや展開はもちろん重要なのだが、ゴールを陥れるシュートに関してはやはり「個人の技量頼み」なのが現実だ。そして、日本は試合の勝敗を決する点取り屋の技量がどの競技でも共通してあまり高くない。「職人」と呼べるシューターが少ないのだ。

 アイスホッケー女子の5、6決定戦。先制点を許した第1ピリオドのシーンが象徴的だった。日本は失点するひとつ前のプレーでGKとの1対1のビッグチャンスを迎えた。しかし、シュートが跳ね返され、そのカウンターから逆にスイスにGKとの1対1の場面を許してゴールを決められた。結果は0―1の悔しい敗戦。同じチャンスを迎えながらもフィニッシュの精度に差が出た場面だった。

 傑出した者を嫌う国民性。みんなが同じことをしていれば安心するという日本独特の考え方は、スポーツの競技レベルが上がれば上がるほど足かせになるのではないだろうか。もちろんチームスポーツである以上、最低限の約束事は必要だ。しかし、「FWはある程度わがままでもいい」とういう風潮が許されなければ、世界レベルの点取り屋は生まれない気がする。

 「日本のFWは器用でいろいろなことができる。守備にも忠実だ」。外国人記者はよくそんなことを口にする。だが、それは褒め言葉ではない。最後にこのフレーズが加えられるからだ。「でも、シュートが下手だね」というきつい一言だ。

 日本のサッカーには変な思い込みがあるのではないだろうか。点を取る選手よりも、お膳立てした選手が「おしゃれ」というような。「キャプテン翼」で例えれば、日向小次郎より大空翼なのだ。しかし、サッカーのマーケットを見るまでもなく、一番巨額な移籍金が動くのはほとんどが点取り屋だ。ゴールを挙げるという特異な能力に報酬が支払われるのだ。そして、極論を言えばこのポジションにオールラウンダーはいらない。ゴール前はスペシャリストの聖域なのだ。

 特別なエリアで結果を求められるストライカーに必須であるシュート技術。日本人選手はそれを向上させるために、どこまで突き詰めているのだろう。そんな疑問が消えない。Jリーグを見ていても、まず「キックがうまい」と思えるFWが少ない。狙い通りのキックができないFWは点が取れない。その状況が大きく改善されなければ、欧州でも通用する点取り屋は日本から生まれないだろう。

 歴代でも間違いなく日本最高のストライカー。釜本邦茂氏の代名詞として広く知られる「右45度からのシュート」は、絶え間ない反復練習から生まれた。「最初は止まったボール。次に動いたボール。繰り返すことで、目をつぶってもサイドネットに持っていけた」と話していた。いまから半世紀前のアマチュアの選手がそこまでやった。それと比べ、サッカーを職業としている現在の選手がそのレベルまで突き詰めているかというと、はなはだ疑問だ。

 サッカーに限らないが、日本のスポーツは点を取るポジションの選手に余計なものを求め過ぎているのではないだろうか。同じ時間を使うのなら、まずシュート技術を極めさせたほうがいい。弱点を平均値に引き上げられた選手より、ストロングポイントをさらに強化した選手の方が相手にとっては怖い。そして、試合を決めるのは、いつも点を取る選手なのだ。

岩崎龍一(いわさき・りゅういち)のプロフィル サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。ワールドカップの現地取材はブラジル大会で6大会連続。