金属行人(2月23日付)

 織田がつき、羽柴がこねし天下餅。座りしままに食うは徳川、なる落首がある。苦労人の徳川家康にはいささか失礼なものだが、物事は結実するまで長い時間がかかるのは確か。種をまき、水をくれ、刈り取るまで同じ人がやり続けるのはむしろ珍しい▼会社経営もそうだろう。オーナー企業でもない限り、現在の事象は先の経営者の施策と往々にして因果関係がある。しかしそのタイムラグを踏まえた評価はなされにくい。新日鉄住金とテルニウムとで争いが続いていたブラジルのウジミナスを見ると、そんな想いを強くする▼ウジミナスの業績が回復したことで、アナリストはセルジオCEOの手腕と持ち上げている。しかし従業員に恨まれながらも合理化を進め、鉄鉱石事業の減資で住友商事を説得し、金融機関に頭を下げ危機脱出に道筋を付けたのは新日鉄住金が指名していたホメル前CEOだ。ただ同氏の朴訥とした性格もあって今一つ理解されず、陽気なセルジオCEOが座りしままとなっている感がある▼釈然としないものは残るが、家康の東照宮遺訓「人生は重荷を背負い遠き道を行くが如し。急ぐべからず」の後段に「堪忍は無事長久の基。怒りは敵と思え」とある。それが最後に天下を取るための心持ちか。

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