【MLB】隻腕投手アボット氏が大谷翔平に送るエール「インスパイアする存在であれ」

数々の輝かしい功績を残したジム・アボット氏【写真:西山和明】

自ら道を切り拓いたパイオニアから、もう1人のパイオニアに…

 前例のないこと、誰も長く達成したことのない事例に挑戦するには、強い意志が必要だ。1989年、エンゼルスの先発投手としてデビューした左腕ジム・アボットは、生まれつき右手首から先がない隻腕だった。プロ入り直前の1988年にはソウル五輪で金メダルを獲得。プロ入り後はデビューから3年連続2桁勝利を飾り、ヤンキース時代の1993年にはノーヒットノーランを達成。数々の輝かしい功績を残したアボット氏が、常に心に抱いていた思いがあるという。

「自分のプレーする姿が、世界中の誰かに勇気とひらめき(インスピレーション)を与えられたら――」

 2018年春、アリゾナ州テンピにあるエンゼルスのキャンプ施設には、臨時インストラクターとしてユニホームを着るアボット氏の姿があった。1999年を限りに引退した後は、モチベーショナル・スピーカーとして各地で講演活動をするが、春はエンゼルスの一員としてアリゾナに滞在。毎年春の訪れを楽しみにするが、今年は例年以上に待ちきれなかった。それというのも、“二刀流”大谷翔平投手が入団したからだ。バッテリー陣がキャンプインした2月15日に、日米合わせて約150人の報道陣が集まった様子を振り返り、「自分のデビュー当時を思い出したよ」と目を細めた。

 甲子園を沸かせた大谷同様、アボット氏も高校時代からメディアの注目を一身に受けた。隻腕のメジャー投手は前例がない。「みんな型破りなストーリーが好きだからね」と笑うが、多数のメディアに囲まれ、日々追われることがプレッシャーになったこともある。それでも、いつの日からか「メディアに注目されることは、またとないチャンス」と考えるようになったという。

エンゼルス・大谷翔平【写真:西山和明】

二刀流の挑戦に抱く思い「両方でチームの勝利に貢献したいという心意気がいい」

「何かを始める前から『自分にはできない。ダメだ』と諦めてしまう人は少なくない。誰かに少し背中を押されれば、一歩を踏み出せる人は多い。そんな人たちに、右手首から先のない自分でも野球ができる、ハイレベルで戦えるんだ、という姿を見てほしいと思ったんだ。メディアに注目されれば、それだけ多くの人々に発信できるのだから」

 前人未到の道を切り拓いた“先輩”として、ベーブ・ルース以来と言われる投打の“二刀流”を目指す大谷にも「誰かをインスパイア(感化)する存在であってほしい」という。

「投げて、打って、その両方でチームの勝利に貢献したいという心意気がいいね。私も一ファンとして、彼の活躍と成功を心の底から願っているよ。オオタニがプレーする姿を見て『投打のどちらかを選ばなくてもいいんだ』って思う野球少年たちが増えるだろうし、勇気づけられる人も多いだろう。目標に向かって前進し続けることが、世界に向かってメッセージを発し続けることにもなる。前例のないことに挑戦できるチャンス、そして周囲のサポートに感謝しつつ、日々を楽しんでほしいね」

 自ら道を切り拓いたパイオニアから、新たな舞台で道を切り拓こうとする、もう1人のパイオニアに送られたエールには、力強さと同時に温かさがこもっていた。

(Full-Count編集部)

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