「奇跡の文体」林文学の魅力 作家平野啓一郎さんが語る

 長崎での被爆体験を小説に書き続け、昨年亡くなった林京子さんの文学を、作家の平野啓一郎さんが語る講演会が24日、横浜市中区の神奈川近代文学館で開かれた。平野さんはじめ、6人の作家らが本紙日曜版で連載する「日本文学 あの名場面」と連動した講演で、約120人が熱心に耳を傾けた。

 「個人の一生と世界史」と題し、平野さんは、緻密かつ情感的で訴求力の強い林さんの文体の魅力に迫った。

 「芥川賞の『祭りの場』は被爆から約30年後の作品。70歳で『長い時間をかけた人間の経験』を書いたが、林さんの文学には、時間の長さという大きな特徴がある」と語った。

 「極めて非日常的な被爆体験の記録を残すという使命感が、地の文の強い克明性に表れている。一方で、生々しく日常的な長崎弁の会話文が見事に共存している。もともとの文学的資質もあるが、こうした要素がシンプルな形でまとまった林さんの文体は奇跡と言っていい」と絶賛した。

 平野さんは、憲法9条について「私たちのいつわりのない本心」とつづった林さんのエッセーを最後に朗読。「今、彼女の作品を読むべき理由の一つだと思う」と述べ、講演を締めくくった。

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