開幕

 応援ソングが流れると自然に手拍子が起きた。斜め前のカップルは仲良くユニホームを着込んで笑顔で臨戦態勢。中継の映像が始まると拍手、監督の姿にまた拍手、敵地の平塚に乗り込んで声援を送る仲間たちの姿にまたまた拍手▲ふだんはしんと静かな新庁舎のロビーが「わくわく」と「ドキドキ」の濃密空間に変わった。待ちに待った-という修飾語がピタリとはまる。V・ファーレン長崎のJ1初陣、県庁でのパブリックビューイングに足を運んでみた▲パスが思うようにつながらず、早々と先制点を許してしまう苦しい序盤。しかし、歓喜の瞬間も思いのほか早く訪れた。フリーキック、高さのあるヘディング、跳ね返りに田上大地選手が頭から飛び込んで同点。隣にいた知らない誰かと誰かが肩をたたき合う。やった、やった、やった▲肩車の上のボクも年配のご婦人も、同じプレーを見つめて息をのみ、悲鳴を上げ、拳を突き上げる。この一体感こそスポーツが私たちにくれる最大のプレゼントだ▲新しい歴史は黒星で始まった。きっと簡単には勝てない、それは知っていた。でも、簡単には負けない。戦える。それを十分に実感できた開幕ゲーム▲とぼとぼと歩く帰り道…決して負け惜しみでなく、それだって楽しい。熱い熱い熱い一年が、始まった。(智)

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