自動車「集購制度」価格指標性どこまで 横ばいが投げ掛ける「軋み」

 自動車メーカーが、調達素材の安定供給や原価計算(部品価格の算定)などを目的に運用する鋼材の「集中購買制度」が、再び試練の時期を迎えている。最大手のトヨタ自動車が4月以降の集購価格(管理自給)を決め、関係先に伝えはじめた。価格は現行比「横ばい」(昨年10月から。一部品種は異なる)。鉄鉱石、原料炭の動きをベースに一定の計算式から出た結果とも言え、結論自体は関係筋の予想を大きく超えてはいない。だが、足元の普通鋼、特殊鋼の生産原価は電極や耐火物など原料以外のコスト増が甚だしい。個別交渉が増える。集購連動取引が多い関連店売りでは、仕入れ値はすでに大きく値上がり。価格転嫁が緊急課題だ。今の加工賃体系では経営を維持できない。「これから一体どうなるのか」との不安げな会話が、流通・加工に携わる関係先で膨らんできた。

 「再び価格交渉を個別でやる状況になってきたね」と古参の鋼材流通業社長がつぶやく。

 トヨタ自動車などの場合、現行の調達方法が始まる以前は部品メーカーが鋼材を自給し、トヨタ生産方式に対応するスタイルが主流だった。

 調達価格が最近のように大きく動くことも稀で、鉄鋼メーカーは原料調達に工夫して原価変動の少ない中で安定供給を続けていた。

 日本の自動車メーカーが世界的に躍進し生産台数が飛躍的に増える一方で、国際競争の激化、貿易摩擦なども顕在化する。この頃から、集中購買方式の導入が進む。

 また、ゴーンショックやCCC21などの大きな原価低減活動が進み、鉄鋼と自動車の関係も大きく変化した。

 トヨタ自動車の場合、集購制度の運用は「管理自給」が前提となる。管理はするが、流れは自給。数量・品番が非常に多く、完全な支給材とすることは現実的ではないのかもしれない。

 部品メーカーが素材を管理自給で調達すれば、決まった集購価格で品質・数量ともに「より安定した」調達が可能にはなる。

 しかし、自動車部品の購入価格を決める「査定根拠」という部分に着目すると、今回の場合「自動車メーカーが購入する部品価格を据え置いた」ことが明らかになっただけと考えることもできる。

 足元では、特に線材製品や特殊鋼製品の需給がひっ迫している。同鋼種は自動車のほか、目下絶好調の工作機械、建産機などにも供給する。生産量を超える注文量になれば、顧客の要求に十分対応できないケースが増える。

 その上、コストが上昇している。「EV化の進展が、電気炉で使う電極の高騰に拍車を掛けている」との指摘もあるが、それ以外にも物流、安全、人材確保など様々なコスト増要因が広く製造業にのしかかる。

 こうした状況では、特殊品を中心に、今まで以上に自動車部品メーカーと鉄鋼メーカーが個別に価格・数量を交渉するケースが増えることにならざるを得ない。集購価格を前提とした計算とは別のコスト計算を、部品メーカーごとにしなければならないのかもしれない。

 そうであれば、「横ばい」となる今回の価格推移は、実際にどう捉え直すべきなのか。

 「同じ公式を使えば、10月以降は値上がりする」との声も聞こえるが、足元ですでに仕入れ値上昇(店売りなど)、諸コスト増は大きく、現実は「とても10月まで負担を続けることはできない」(扱い筋)。鋼板などでは加工賃も長年据え置かれ、一時は逆に値下がりさえした。この見直しも急務だ。

 そもそも、国内の鉄鋼需要全体のうち、自動車向け鋼材消費というのは自動車メーカーの集購価格が「全体の指標」になるぐらい大きなものなのか。もちろん、自動車産業は鉄鋼業とともに日本の製造業の根幹であり、トヨタ自動車の真摯(しんし)な購入姿勢、正確な生産計画などを見ても、注目度が高いことは察しが付く。

 さらに、自動車の素材自体が着実に変化していることも見逃せない。鋼板などではハイテン鋼の比率が高まっているほか、最近ではアルミなど非鉄金属、樹脂などの比率も増えている。「マルチマテリアル化」だ。その、特殊性が高まる調達品の価格推移を、単純に建設や造船、その他産業分野のものと比較していいかどうか。

 「中小零細が支える巨大な産業のピラミッド構造と業界間の生産連携」によって、世界に誇れる優れた自動車が生み出されている実態を再確認し、さらなる発展に向けた取り組みが求められている。

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