【トップインタビュー 愛知製鋼・藤岡高広社長】「安全」「品質」「生産」強固に 収益力に磨き、20年度に120万トン体制へ

――事業環境は。

 「極めて堅調。自動車産業の好調に加え、建機・産機なども好調。当社の生産も極めて高い水準で、来期もこの状況は継続するとみる。これに合わせ、当社の生産体制も増強していかなければならない」

――足元の経営課題は。

 「まずは、伸長するお客様のニーズにしっかり合致した供給体制を構築できるかどうか。今期は、113万3千トンという高需要に対応する生産計画を着実にこなし、計画した110億円+αの経常利益を実現すること。そして、2016年に起きた『1・8』(知多工場の爆発事故)の教訓を決して忘れず、安全・品質・生産のベース活動を強くし、モノづくりのレベルをさらに上げていくプロジェクト『ステップアップ・プラン』の完遂に向け、全社で確実に取り組んでいく」

愛知製鋼・藤岡社長

――現行中期経営計画の2年目となる。

 「中計の柱は(1)収益力を磨く(2)基盤強靭化(3)スマートへの布石―の三つ。自動車のパラダイムシフトの進展やスマート社会の到来に伴い、既存ビジネスがそのままでは減少するため、新たなビジネスの創造や既存ビジネスの発想転換の必要性があるというコンセプトであり、収益力を磨くための設備投資は着実に行っている」

 「知多工場では、精整ライン(Aライン)の新設工事が完了した。半製品の平均滞留日数を半減し、出荷リードタイムを短縮させ、生産性は約1割向上した。鍛造工場ではCVT向け新3千トンラインの竣工や、ディファレンシャルリングギヤの能力増強によるタイムリーな供給対応を目的に、新ローリングミルラインの建設を開始した」

 「また電子部品では次世代車向けのパワーカード・リードフレームの生産能力増強とBCP対応強化のため、岐阜工場に新ラインを建設するなど将来に向けた投資を確実に行っている」

――収益力を磨くため今期からカンパニー制を導入した。

 「スピーディーな経営への推進力を強化するのが目的だが、各カンパニーがI Will(当事者)の意識を持つ大きな契機になり、手応えを感じている。それに、カンパニー間の協力体制ができたことも大きい。今後、我々を取り巻く事業環境は大きく変化してくるが、それに対応するための企業風土、組織体制が着実に形づくられてきていると認識している」

――基盤強化とは。

 「まず、仕事に燃える集団づくり=働き方改革の実践が重要だ。次に『安全・環境・品質』。その次は『生産』。素材を通じ、もっといい社会づくりへ貢献していくこと。最後に『コスト』。たゆまぬ知恵と改善、現地・現物・原理・原則を追求すること。要するに、『安全』『品質』が担保された製造ラインでは仕事がリズミカルになり、『量・生産』そして『コスト』がついてくる。これらの優先順位をしっかり守り、強固な事業基盤を構築していく」

――中計最終年度の生産レベルは。

 「20年度の生産計画は120万トンを見込み、その後も当社が生産する特殊鋼鋼材の需要はさらに伸びると考えている。高需要にお応えしつつ、特殊鋼のニーズを拡大させていくためには、足元でやるべきことはまだかなりある。それをしっかり積み上げて実現し、次代に向けての戦略投資につなげていきたい」

――EV化の進展について。

 「EV化は、それほど急激に進むとも思えないが、着実に進むことは間違いない。今から考えておかないと来るべき将来に対応できない。そういう意味では、大きな変化が間近に迫っているといえる。それに対応すべく、今年1月より次世代開発のための新たな組織である未来創生開発部を新設した。次世代モビリティ・機能材料の開発をよりいっそう強化していく」

――それが「スマートへの布石」につながるのか。

 「変化への対応、新たなビジネスの創造という意味では、EVなどの次世代車対応のモータ・電池・インバータ用の部品・素材開発、水素社会の到来へ向けた水素ステーション・FCV向けのステンレス鋼のさらなる開発、MIセンサを応用した磁気マーカーシステムによる自動運転ビジネスにも積極的に参画していく」

 「環境・エネルギー面では『鉄力あぐり』の改良などによるアルカリ土壌向けの土壌改良材としての活用などが挙げられる」

 「また、来るべきEV時代に対し、スマートカンパニー、鍛、鋼のオンリーワン技術を結集させ、ローター軸・ギヤ一体構造のモジュール開発や軽量化に向けた中空鍛造品の商品開発も進めており、いかに今までの素材ビジネスに付加価値をつけていくかが非常に重要」

行動規範「アイチ・ウェイ」策定/当事者意識で課題解決「創造力を最大に」

――Aichi Way(アイチ・ウェイ)も策定した。

 「仕事をする上で『どのような心をもって考動すべきか』を明文化した。当社社員の行動規範となるもので、『伝承』『感謝』『創造』の三つのカテゴリーがベースとなる。『伝承』は先人が築いた高い志をしっかり引き継ぎ、誠実な心を持ってI Willの当事者意識で物事を進めること。また、問題解決のためには、現地現物で事実を捉えることも必要だ。お客様とチームメンバーへの感謝と尊重を忘れず、知恵と好奇心を持ち、よい品よい考で創造力を最大にし、新たな世界へ歩み出すことが重要となる」

――海外戦略は。

 「これまで投資し市場開拓してきた戦略については、課題は幾つかあるものの、着実に収益に貢献できるレベルまで成長してきている。今後も、国内で実績のあるラインを海外で展開するとともに、日本の鍛造工場をマザーラインとした人・技術の交流による競争力強化により、お客様の現地生産にタイムリーに対応することで、さらなるグローバル展開に対応したい」

――国内子会社は。

 「今年は愛鋼での取り組みがポイント。衣浦工場(愛知県半田市)の能力増強計画が進んでおり、19年春に新工場棟が部分稼働を開始する予定。新工場棟は、現在の衣浦工場で手掛ける特殊鋼素材の自動車向け切断、穴あけ加工製品の需要伸長などに伴う能力増強と機能集約による工程の整流化、ステンレス製品の加工事業拡大を目的にしており、より付加価値のある製品を提供すべく取り組む」

――本社屋のホール棟が竣工し、ビジターセンター、大ホールが新たにオープンする。

 「創立75周年事業の一環として実施してきた新本館・ホール棟が竣工を迎え、大きな節目と考えている。今年のキーワードは『変』。中期経営計画の中でも触れたように、EVやAI活用の自動運転など、自動車を取り巻く環境は着実に変化している。この変化を着実に捕捉し『自分たちに何ができるか』を原点に立ち返って自分のこととしてしっかり認識し、どう将来の希望へとつなげていくか。そういう意味で今年は非常に大切な年と考えている」
(片岡 徹)

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