「東南アジアから首都東京へ…さすらいフットボーラー・能登正人の決断に迫る」

「カレンさん、就職先は東京ユナイテッド(FC)になりました!!」

さすらいフットボーラーこと、能登正人(のとまさひと)から久しぶりに連絡が来たかと思えば、その第一声は驚きの内容であった。

セレッソ大阪ジュニアユースを経て、高校卒業後に単身で渡欧。スペイン、ドイツ、タイ、日本、ラオスと、これまで様々な国でプレーし、昨年はインドネシアのペルシバ・バリクパパンでプレー。

その後退団して、痛めた腰痛の治療をしながら次なるプレーの場を探していたことは知っていたが、「まさか東京ユナイテッド(FC)とは…」というのが筆者の正直な感想であった。

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もちろん、東京ユナイテッドFCと言えば、元日本代表DF岩政大樹がプレイングコーチとして在籍し、杉山哲、黄大城、黄大俊、保坂一成、佐々木竜太、田鍋陵太、永里源気ら「元J組」も集まるクラブとしての地位を築きつつあり、サッカー界の中でも一目置かれる存在だ。

しかし、と言っても、彼らは関東一部リーグのクラブ。

Jリーグはもちろんのこと、JFLよりも下のカテゴリーに属する。

これまで世界をまたにかけてきた男が、日本への帰還、さらに、地域リーグでのプレーをなぜ選択したのかは、やはり気になるところだ。

加入が正式発表されたタイミングで、その素朴な疑問を本人にぶつけてみることにした。

能登正人

カレン(以下、――)日本復帰おめでとうございます!東京ユナイテッド入りには正直驚かされましたが…

能登正人(以下、省略)ですよね?(笑)なかなか意表を突いた選択だったと自負しています(笑)

――改めて移籍の経緯を教えてください。

バリクパパンを退団してからは、腰の治療をしながら移籍先を探していました。東南アジアだったり、欧州だったり、間口は広げて。ただ、当時は「日本でプレーする」という発想は正直ありませんでした。

ですが、(岩政)大樹さんから直接連絡がきて、そこから全てが急転直下で動いた感じですね。

――元々、お互いに面識があったわけですね。

所属したチームは別だったのですが、タイ時代、お互いにプレー時期が重ねっていたんです。

なので、プライベートでもお世話になりましたし、トレーニングの勉強をさせてもらったりとかも…。大樹さんがタイを離れてからもちょくちょく連絡は頂いてました。

――とは言え、それでも今回の移籍は周囲も驚いたと思います。決め手はなんだったのでしょうか?

そもそも、僕が「日本でサッカーをすることはないな」と頭にあったのは、日本のサッカー文化だったり、クラブ文化に、自分の感性が合わないと思っていたからなんです。ちょっと表現が難しい話にはなるんですが…。

ですが、大樹さんやクラブの方から話を聞いてみると、「東京ユナイテッドは何か違うな。何か面白そう」と思えたんです。

僕は、サッカー以外にもフィールドを広げてきたタイプの人間ですが、そのような面についても寛容的で、「それは続けていこー。クラブの宣伝にもなるからどんどんやってよー」という感じ(笑)

そう言われると、僕もハリきっちゃいますし、そういう理解があるクラブであれば、自分のキャリアのことを考えても「ありかもしれない」と考えたんです。

タレント活動やデザイナー活動においても、「東南アジアより東京にいたほうが広がるな~」と思っていた節もありましたし。

まぁ、関西で生まれ育ちましたけど、今や東京のほうが詳しいですし、僕自身がすっかり「東京人」ですしね(笑)

――チームの方針や理念についてはどう感じましたか?

「はっきりとした目標、しっかりとした運営基盤があるな」という印象を持ちましたね。

地域リーグのクラブだと、当然その規模は決して大きくないですし、目標がずれたり、運営がグラグラだったりがあると思うんですが、ここは全然違うんですよ。

「毎シーズンステップアップして、Jリーグに参入する」という目標があって、それに向かってのクラブ運営に対する考えもしっかりしています。

また、クラブ幹部の方達もビジネスマンとしてすごいキャリアの持ち主ばかりで、スポンサーの方々も名だたる企業や地元企業などが集まっています。

大きな後ろ盾があることは、選手にとって非常にプレーしやすい環境だと言えると思います。

――たしかに。地域リーグのクラブでそこまでしっかりしているところは珍しいですね。

そうです。それは選手を獲得する手法からも感じますね。

通常、選手を獲得するのはチームを強化するためであって、下部リーグなんかは特にですが、昇格した途端に貢献した選手をお払い箱にしてしまうところも少なくないんです。でも、それって選手にとっては本当に悲しいことで…。「なんで??」と思うような状況に出くわすことも多々あります。

ですが、ここにはそういう不安がない。サッカー選手である前に一人の人間として評価してくれているんですよ。

クラブも「引退後はどう考えているんだ?」と気にかけてくれたり、それこそセカンドキャリアのことまで考えてくれます。

そういう温かい心があるクラブならさらに上を目指せるだろうし、僕が可能性を感じた一つの理由もここにあります。

――たしかに選手も一人の人間ですからね。クラブの心遣いには感化されますよね。

もちろんです!

地域リーグのクラブは「選手全員プロ」というわけにはいかず、多くの選手が働きながらのプレーですが、やはり、自分のサッカー人生に対して漠然とした不安はありますからね。

そこをクラブが取り除こうと考えてくれるのは本当にありがたいと思います。

サッカー選手って、現役中は基本的にサッカーのことだけ考えているので、先のことまでなかなか頭が回らないんですよ。

まぁ、僕みたいな人間が言っても説得力はないでしょうけど(笑)

ただの変わり者なだけなので、僕は例外だと思ってください(笑)

――実際に練習をしてみてどうでしたか?加入前のイメージとの違いなど。

正直、自分が思っている以上にレベルの高さを感じました。

例えば、保坂選手とボランチを組んだ時なんかは、「あ、この人違うな…」と思わされましたね(笑)

J経験者の数がこのカテゴリーでは異例ということもあるとは思いますが、どこと対戦してもちゃんと後ろから繋げますし、戦術理解力も高いのでチーム戦術も早く浸透しそうです。

――能登選手の役割は?

システム的はまだ試行錯誤的なところもありますが、ボランチだったり、トップ下で使われることが多いですね。約束事はそれなりにありますが、基本的には自由にやらせてもらっています。

僕は攻撃も守備も好きなんで、球際はガッツリいって、ゲーム作って、ゴール前にも絡んで…みたいな感じです。

若い選手も多いので、コミュニケーションの面だったり、意識の面だったり、まだまだ伸ばせるところがあるので。そこは良い意味で空気は読まずに周囲に要求しています。もちろん、大樹さんのような年上の選手に対してもそうですよ。ピッチの中では全てイーブンですからね。

ただ、言うからには自分が戦えていないと周りに言えないですし、ベースとなる部分は海外で経験したことを活かそうと思っています。周りと馴れ合いになるのではなく、うまくやっていきたいです。

まぁ、こういう僕みたいな「非日本人的発想」は、クラブから求められている気はしています(笑)

あ、あと、重要なことを忘れていました!

――というと??

クラブの良さを広めていく役目ですね。

そういう面はこれまで大樹さんが一手に引き受けていた部分があるので、「そういうの、マサも頼むよー」とクラブの人からも言われています。

まぁ、サッカー選手でありながら、サッカー選手らしくない活動も積極的にやってきた人間なので、この経験を活かさいとね(笑)

とにかくクラブにとってプラスになりそうなことがあるなら積極的に動いていこうと思います。

そもそも、僕がクラブの可能性を信じているということもありますし、その魅力をもっと色んな人に伝えていきたいんですよ。

少しでも多くの方が東京ユナイテッドに関心を持ってもらえるように、ピッチ内外で頑張ります(笑)

<インタビュー了>


正直、彼から直接話を聞くまでは、この移籍には「?」ばかりが浮かんでいたが、今回でその「?」は全て吹き飛んだ。

「たった一度のサッカー人生。もうそんなに先があるわけではないので…。引き続き全力で楽しみますよ(笑)」

そのように語る彼が見据えている東京ユナイテッドの未来予想図は、JFL、J3昇格という単純なものではなく、もっと壮大なものなのかもしれない。

なお、今季の『関東サッカーリーグ一部』は4月1日から始まる。

しかしそれより一足お先に『東京カップ2次戦』が3月4日に開催。東京ユナイテッドFCの2018シーズンの初戦である。

おそらく、「サッカーは好きだけど地域リーグまでは…」という方が多いだろうが、この機会に一度足を運んでみてはどうだろうか。

彼らの試合を見れば、海外サッカー、Jリーグにはない魅力、そして、能登正人が話してくれた“可能性”を感じられるはずだ。

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