【ニュースの周辺】〈新日鉄住金、印エッサール買収に名乗り〉成長市場で上工程獲得 保護主義台頭、輸出に限界

 新日鉄住金がインド鉄鋼大手、エッサール・スチールの買収に手を挙げた。アルセロール・ミッタル(AM)と共同で取り組むもので、実現すれば鉄鋼需要の持続的な拡大が見込めるインドで製鉄上工程を獲得できる。ポイントは「成長市場でのインサイダー化」だ。

 新日鉄住金がエッサールをAMが買収した際に共同経営する合弁会社を設立することで合意したと発表した2日、米国からはトランプ政権による鉄鋼輸入の規制措置「通商拡大法232条」の発動が間近との報が伝わった。

 一見すると、この2件に直接的な関係はないが、共通しているのは海外の鉄鋼需要を捕捉する手段として「輸出」のリスクが増え、上工程から現地生産するインサイダー化の重要性が高まっていることが示されている。

 インドはモディ政権のもと7%前後の高い経済成長率を続け、2017年には初めて粗鋼年産が1億トンを超えた。それでも人口1人当たりの鋼材消費は16年時点で63・1キログラムと、日本や中国の8分の1だ。中国ほどのスピード感はなくとも、今後のインフラ整備や経済発展、人口構成から見て、世界で最も成長余地を残した鉄鋼市場と言える。

 しかしインドには国営・民営あわせ有力な鉄鋼メーカーが既に存在しており、保護主義的な風潮が強い。そのため海外の鉄鋼メーカーが輸出を通じて伸びる印市場の需要を捕捉するのは難しくなっている。

 現に印政府は15年以降、セーフガード(緊急輸入制限措置=SG)措置やアンチダンピング(反不当廉売=AD)措置を相次いで発動。この影響で日本からの印向け熱延コイル輸出(合金鋼を除く)も15年の125万トンをピークに激減し、17年は53万トンだった。厚板輸出は15年の11万トンから17年はわずか1万トンにとどまっている。

 仮に新日鉄住金がAMと共にエッサールを獲得できれば、こうしたホットや厚板を現地から供給する道が拓ける。現状ではエッサールが競争力のあるミルとは言い難い。新日鉄住金単独では手を出しにくい買収だったかもしれないが、インド出身で同国でも人気が高いラクシュミ・ミッタル会長率いるAMと組めば、リスクを分散しつつ再建へと導く絵が描きやすくなる。

 また、進藤孝生社長は2日の会見で、あえて「ブラウンフィールドの買収」であることを指摘した。印では成長に取り残されまいと、JSWスチールやタタ製鉄、ジンダル・スチール&パワー(JSPL)、そして国営企業のセイルに至るまで、地場ミルによる能力増強が目白押しで進んでいる。

 ここで外資系企業が新たに参入しグリーンフィールドで製鉄所を建てるとなると過剰能力を招きかねないが、すでに稼働しているエッサールを取得するとなれば、その懸念はなくなる。そして需要増を見極めつつエッサールの設備や販路を新日鉄住金・AM連合でアップグレードさせていけば大化けする可能性も秘めている。

 新日鉄住金の印事業には、自動車向け焼鈍冷延材を造るタタとの合弁事業、JCAPCPLなどがある。ただ近い将来には中国に次ぐ世界2位の鉄鋼生産国となるインドだけに、今回のエッサール買収が実現すれば、さらに踏み込んだ戦略を採ることができる。

 トランプ大統領の下、対外的な門戸を閉ざしつつある米国で新日鉄住金はAMと共にAM/NSカルバートなど合弁事業を手掛け、インサイダーとしてのポジションを確立した。果たして印でもそれが成るのか。4~5月にも下る売却先の決定は、新日鉄住金のグローバル事業の未来を占うことになる。(黒澤 広之)

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