豪州SC:開幕戦はレッドブル新型ホールデンがデビュー2連勝も、ライバルから抗議

 3月1~4日に開催された第1戦『アデレード500』で、いよいよ開幕を迎えたVASCヴァージン・オーストラリア・スーパーカーは、今季からGen2規定を採用したホールデンの新型モデル、コモドアZBが予選ポールポジションからレース1、レース2を連勝で制する圧巻のデビュー。しかし、終了後にライバル陣営からマシンの構造に対し“異議”が挙がるなど、波乱のシーズンを予感させる週末となった。

 2018年から投入されるホールデン・コモドアZBを開発したレッドブル・レーシング・オーストラリア、トリプルエイト・レースエンジニアリングは、2016年王者のシェーン-ヴァン・ギズバーゲン(SVG)が予選トップ10シュートアウトを制し、見事ポールポジションを獲得。開幕戦から開発チームとしての実力を見せつけた。

 一方、2017年に新記録となる7度目の戴冠を果たしたSVGのチームメイト、ジェイミー・ウインカップは、プラクティスからマシンとのフィッティングがうまくいかず、予選セッション中にターン8でスライドしウォールに激しくヒット。現役王者ウインカップをして「暴力的で危険なクラッシュだった」と、その瞬間を振り返った。

「あれは完全に自分がミスを犯した。そのアタックラップはセクターで自己ベストが出ていて、さらにハードに追い込んだんだ。でもターン8でのグリップが足りず、ほんの少しだけワイドになった。マシンは見た目より大きな衝撃を受けており、ロールケージに変形があれば修復は難しいだろう」と、肩を落としたウインカップ。

 データロガー上でもその可能性があったウインカップの1号車は、その後の検査でロールケージの状態が確認され、チームは懸命の修復作業を行いなんとかグリッドに並ぶことができた。

 王者のクラッシュという波乱の予選を経て迎えたレース1は、ポールスタートのSVGがわずかにロスした間隙を突き、フロントロウ2番手のスコット・マクローリン(DJRチーム・ペンスキー/フォード・ファルコンFG-X)が1コーナーを奪取。そこにセカンドロウ・スタートの新生ウォーキンショー・アンドレッティ・ユナイテッド、ジェームス・コートニー(ホールデン・コモドアZB)が続くオーダーで幕を明けた。

 しかし、ここで焦ることなく新型モデルの性能と実力を見極めつつ、前の2台を影のように追ったSVGは、2回目のピットと最後のピットストップでタイミングをずらす戦略を採り、終盤の逆転に成功。そのままホールデン・ワークス指定の開発チームに、新型マシンのデビューウインをプレゼントする開幕勝利を飾った。

 続く2位には同じくピットストップで王者候補のマクローリンを逆転したコートニーが入り、終盤にリッチー・スタナウェイ(ティックフォード・レーシング/フォード・ファルコンFG-X)、ジェームス・ゴールディン(ギャリー・ロジャース・モータースポーツ/ホールデン・コモドアZB)、トッド・ヘイゼルウッド(マット・ストーン・レーシング/フォード・ファルコンFG-X)らが絡んだクラッシュの影響でセーフティカーが導入されたこともあり、首位のSVGから3位のマクローリンまでのタイム差は、わずか3.5秒という緊迫の78ラップとなった。

 一方、このレースでも王者ウインカップの悪い流れは断ち切れず、最終的に4位に入ったデビッド・レイノルズ(エレバス・モータースポーツ/ホールデン・コモドアZB)とのバトルで序盤にスピンを喫し6位どまり。レース後の審議でも、レイノルズにはお咎めなしの裁定が下っている。

 続く日曜のレース2でも王者の受難は続き、ウインカップはスタートから序盤戦に首位を快走し大きなギャップを築いたものの、予選クラッシュの影響からか彼のニューマシンは突然のギヤボックストラブルで駆動を失い、そのままレースを終えることとなってしまった。

 また、その王者に変わってレースを引っ張ったDJRチーム・ペンスキーのマクローリンも、21周目に右フロントタイヤのパンクでドロップ。これで首位浮上に成功したSVGが、開幕2連勝という望外のリザルトで週末に300ポイントを稼ぎ出し、2018年シーズンのロケットスタートを切った。

「僕はアデレードが大好きなんだ。本当に素晴らしいレースだった」と喜びを語ったSVG。

「実はセットアップの面では少々間違った方向に行っていたのだけど、おかげでデビッド(・レイノルズ)と良いバトルができた。チームには感謝の気持ちしかないし、新型コモドアにとっては完璧なデビューになったね」

 その2位レイノルズに続き、最後の表彰台となる3位にはギャリー・ロジャース・モータースポーツの大ベテラン、ガース・タンダーが入り、レース2は新型ホールデン・コモドアZBが表彰台を独占する結果となった。

 しかしこのレース終了後、リザルトに対してフォード陣営を中心に異論の声が噴出。このGen2規定コモドアZBはVASCシリーズの承認を得てルーフをカーボンファイバー製の軽量素材に置き換えるなど、その他にも数多くの軽量パーツが採用されていることに不満の声が相次ぎ、その結果により「低重心化と重量配分の点で、共通シャシーの理念から外れた不当なアドバンテージを得た」とする抗議の声が挙がった。

「もちろん、ドライバーを含めた最低重量の1410kgが守られているのは車検の結果からも理解しているが、トラックで彼らの新型モデルの走りを観察したこの1週間の結果を踏まえれば、あのマシンがアンフェアな低重心化を成し遂げていると考えるのが妥当だろう」と語るのは、DJRチーム・ペンスキーのマネジングディレクターを務めるライアン・ストーリー。

「我々はホモローゲーション取得の作業を直接的に担当してはいないが、ファルコンを開発したティックフォードとは緊密に情報交換を行っている。マシンの“センター・オブ・グラビティ”はどんなレースカーにとっても生命線だ」

「彼らにとって効果的なものは、我々に取っても効果的であるのは自明の理だ。VASCシリーズの判断次第だが、彼らの決断のもとで我々のマシンにもそうした追加承認が行えるよう、議論を進める必要がある」

 一方、2018年シーズンからVASCのサポートカテゴリーとして初開催されたECBスーパー・ユートは、予選でポールポジションを獲得した『マツダBT-50』のライアル・ハリスが、記念すべき初勝利を含む2勝をマーク。土曜のレース2では『ホールデン・コロラド』のトム・アレクサンダーが勝利を挙げている。

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