金属行人(3月8日付)

 石油パイプラインの内側に黒いさびが発生することがある。一般にさびが生じるのは酸素のある環境。しかし、このさびは油で満たされた無酸素環境に現れる▼原因は硫酸還元菌と呼ばれる微生物。米国や英国などで長年問題になっている微生物腐食という現象だ。米国では年数百億ドルに及ぶ経済損失やパイプライン事故の20%以上がこの腐食に起因するとも指摘される▼この細菌の詳細なメカニズムを物質・材料研究機構が解明することに成功した。細菌が鉄から電子を引き抜く行為がさびを招くという。電子は細菌のエネルギー源に。そして、電子を失った鉄はイオンとなって他の物質と結び付き、さびが形成されるというわけだ。いったんさびができれば、それ以上は進行が収まりそうなものだが、この細菌は、さび層の下にある鉄の電子まで奪えるという。このつわものの「電子を食べる」現象を実験で確かめた▼今回の成果は、新たな防食技術開発に役立つほか、生態系を考える上でも重要な意味を持つ。光合成の恩恵のない深海の微生物に対し、地下鉱物が電子というエネルギーを与えている可能性を示唆するからだ。鉄と切っても切れない関係にある腐食にも奥深い世界が広がっている。

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