オタク3人「秘密の花園」   アイドル追っかけが共通点  シェアハウスという暮らし方(2) 「U30のコンパス」

 

 

東京都世田谷区のマンションの3LDKで、約1年前から生まれも育ちも違う女性たちが共同生活を始めた。東京都出身の 里子 (さとこ) さん(27)、徳島県出身の 小春 (こはる) さん(27)、神奈川県出身の 由佳 (ゆか) さん(25)=いずれも仮名。3人の共通点はジャニーズのアイドル「関ジャニ∞」を10年以上応援し続けているオタクであるということだ。

 11月上旬、家賃16万8千円や生活費は割り勘という秘密の花園「オタクシェアハウス」に招かれた。玄関に並ぶ数々のグッズに迎えられ、どきどきしながら入ると、棚に大量のアイドル雑誌が並ぶ。トイレの壁一面にはポスターがずらり。リビングの隅には「夏にひたすら飲んだ」という、関ジャニ∞がCM出演する栄養ドリンクの空瓶約50本が置いてある。

 旧友同士の里子さんと小春さん、コンサートで知り合った由佳さんの共同生活が始まったのは2014年11月。きっかけは東京の専門学校を卒業し、帰郷した小春さんの再上京だ。ふるさとの友達はみんな都会に出てしまい孤独だった。好きなだけ関ジャニ∞を追えないストレスもたまった。

 我慢できず「実家を出たことがなく、機会を探していた」という里子さんに加え、由佳さんを誘い、家族の反対を押し切って東京で生活を始めた。

 シェアハウスを始める時、ツイッター上で「婚期を逃す」と止められた。親からも上がったその声を、3人は「ほっといて」と一蹴。「家族は不安かもしれないけど、結婚だけが全てじゃない」と小春さんは胸を張る。

 家事の役割分担はないが、けんかもない。できる人ができる時にやる。由佳さんは「1人暮らしと比べて、食事をする回数が増えた。会話の相手がいるからふさぎ込むこともない」と笑顔だ。

 この暮らしに期限はなく、誰か1人でも抜けたら解散というのが共通認識だ。「3人とも何より関ジャニ∞が一番だから一緒にいられる」と言い切る姿は輝いていた。好きなものを好きなだけ追いかける彼女たちの青春は終わらない。(共同=副島衣緒里24歳)

 

▽取材を終えて
 彼女たちのシェアハウスを訪れたのはお昼すぎ。「まずは腹ごしらえ」とお手製のハヤシライスをいただいた。自炊と無縁の寂しい1人暮らしをする私にとって、外食以外で人が作ったものを食べたのは久しぶり。その温かさに思わず心がじーんとした。

 実は私も学生時代は全国津々浦々好きなアイドルを追いかけ回す日々を過ごしたオタクだった。今は卒業したけれど(強調)。おかげで移動手段である飛行機や新幹線の種類とか、訪れる駅や空港の構造とか、無駄に詳しくなった。その時、知り合ったたくさんの友達とは今でも連絡を取り合うし、あのとき過ごした時間は私の人生にとって大事な宝物だ。

 だから、3人を取材するのはちょっとだけつらかった。自分が社会人になるときに捨てた青春を今でも謳歌(おうか)している彼女達がうらやましくてうらやましくて。3人がキラキラしすぎてて、今の自分がすっごくつまらない人間になったように思えた。過去の自分が今の自分を見て「つまんない」なんて言えないように、そして何より彼女たちに負けないように、今の自分の日々を輝かせたい。

今日も仕事、頑張ろう。

【一口メモ】「好き」を貫く覚悟

「趣味はジャニーズの追っかけ」という女性に、世間は結構冷たい。「現実を見て」と諭したり「そんな生き方わがままだ」と怒ったり。彼女たちは現実を知らないわけではない。将来を語るときは恐ろしく冷静で「好き」を貫くことに想像以上の覚悟がある。趣味にささげる人生は思ったより怖いはず。「それでも好きだから」という情熱への純粋さに魅了された。
(年齢、肩書となどは取材当時)

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