【新三興鋼管創立20周年】独自メリット生かし存在感 商社系・製販同一拠点

 三井物産グループの電縫鋼管専業メーカーである新三興鋼管(本社・千葉県市原市、社長・田中真也氏)が今日9日、創立20周年を迎えた。破産した三興電機製作所を三井物産が出資して立て直し、現在では唯一の商社系鋼管専業メーカーとして、小規模ながらもSGP(配管用炭素鋼鋼管=ガス管)やSTK(一般構造用鋼管)、STKR(一般構造用角形鋼管)の一般管、農ビ管の分野で確固たる地位を維持している。他社にない独自のメリットを生かしつつ進化してきた同社の歴史を振り返る。(後藤 隆博)

三興電機製作所の破産

 新三興鋼管の前身は、1946(昭和21)年12月に創立した三興電機製作所。同社は電線管とその付属品の製造販売からスタート。その後、STKやSTKM(機械構造用鋼管)の製造も始めた。一時は東京の蒲田、神奈川の相模原、千葉の市原に製造拠点を持ち、都内の虎ノ門に自社ビルを構えるなど業容拡大を図り、かなり羽振りが良かったという。

 ただマーケットニーズの変化や他社との競合が激化するなか、資金繰りなどに苦しみ経営が悪化。94(平6)年に蒲田、96(平8)年に相模原と2工場を閉鎖して千葉の市原に生産を集約したものの経営を立て直すことができず、1998(平10)年3月に破産を申立て。同年6月に東京地方裁判所から破産宣告を受けた。

 現在の新三興鋼管の従業員は約110人だが、三興電機製作所時代を知っている社員もまだ全体の2割くらい残っている。

新三興鋼管の設立

 破産した三興電機製作所の立て直しに手を挙げたのが三井物産だった。三井物産鉄鋼製品本部厚板鋼管部の駒井正義鋼管室長(当時)が主導で、三興電機製作所のオーナーとの折衝によりM&Aを実施した。三井物産100%出資により98(平10)年3月9日に「新三興鋼管」が設立。同月16日から操業を開始した。2000(平12)年には旧三興電機製作所・千葉工場と同地の設備すべてを破産管財人から購入している。

 初代社長は駒井氏が1年ほど務めた後、2代目が横手康紀氏、3代目が鍛冶英吉氏、4代目が永井健二氏(2000年9月~09年6月)、5代目の山本和久氏(09年6月~13年1月)を経て現在の田中社長が6代目。駒井氏と横手氏は非常勤で、鍛冶氏以外は全員三井物産出身者が社長に名を連ねる。

 発足後、3年間くらいは赤字で苦しんだが、それ以降は黒字を継続。02(平14)年には資本金を3億円に増資したことにともない、新日本製鉄(現新日鉄住金)が3%出資した。翌03(平15)年には累積損失を解消している。その後、15(平27)年6月には三井物産が保有していた株式の名義が三井物産スチールに変更されている。

月産6000トン体制に移行

 国内唯一の商社系鋼管専業メーカーとして存続する道を選んだ新三興鋼管。今後は、最大手の丸一鋼管、高炉系の日鉄住金鋼管やJFE溶接鋼管などに対して、言わばその他〝第三極〟の中での存在意義をより明確にすることに重点を置いていく。この20年の間にも、サイズレンジや製造品種の拡充に注力してきた。

 田中社長は自社の強みについて「本社と工場が同じ場所にある製販同一拠点のメリット」を強調する。工場、営業、管理部隊が一カ所にあるため、製販一体となった迅速で柔軟な活動がしやすい。今でも「小回りの良さ」は顧客に評価されている。

 〝第三極〟での存在意義を高めるため、製造面では15(平27)年から昨年までの2年間で新三興鋼管発足以来となる大規模な製造設備再編を行った。

 全部で5基あった造管機のうち老朽化していた角形鋼管専用の3号機を廃棄。跡地に1号機を移設して新3号機とした。旧3号機とライン走行方向を逆にし、下工程の自動化の設備改良などを行ったことでラインスピードを最大限に引き出すことが可能になった。また、もっとも大径サイズを製造できる6号機は一昨年から最大8インチサイズの製造も開始。昨年3月以降は、2直から3直体制に移行している。一連の製造設備再編で、能力的には月産6千トン体制に移行した。

 以前に1号機(新3号機)を設置していた場所は製品在庫置場として活用。また近隣に一般管製品置場用の倉庫も賃借し、短納期ニーズへの対応力を強化した。

 工場内の操業は、独自に定めた厳格な基準で安全対策を徹底している。全25項目におよぶ独自の安全作業標準の遵守事項を細かく列挙し、現場スタッフに配布。安全衛生委員会で内容が更新された場合は逐次改訂版が配布される。

 チームごとで始業前に行うツール・ボックス・ミーティング(TBM)は06年6月から行っている。全員が安全唱和し、工場内での危険カ所や指摘事例などを周知する。その他、作業長と職場安全委員会による現場パトロールの実施、不安全行動をとった場合の査定考課への反映など、厳格な活動を継続。「安全は個人の責任」を徹底させ、日々操業に活かしている。

 社内環境整備のため、昨年10月には新本社屋が完成。旧三興電機製作所時代から築40年以上経過していた旧社屋は老朽化が激しく、東日本大震災でも一部被害を受けていた。工場設備再編と同じタイミングで完工し、営業や総務・経理事務などがより効率的に行えるようになった。

さらなる〝進化〟へ

 田中社長は、新三興鋼管のさらなる〝進化〟に向けて、以下の3つのポイントを挙げている。

 (1)農ビ管分野の進化

 現在、全体の生産量の約3分の1を占めるのが農ビ管分野。主に、管工機材販売や温室の設計・施工を手掛ける渡辺パイプ(社長・渡辺元氏)の手掛ける農業用ハウス向けに供給している。その骨組み部材向けに開発したのが高張力鋼管「タフパイプ」だ。

 母材コイルは日新製鋼のZAMを使用。高耐食・高張力のため従来レベルの強度を維持しながら薄肉化・軽量化が図れる。販売開始以来、農業用ハウスで多くの採用実績を挙げている。

 今後も農ビ管分野は同社の主力事業として位置づけており、ユーザーニーズに合った独自商品開発に注力していく。

目指すは一般管の〝スーパー・コンビニ〟

 (2)一般管の拡販

 工場内の製造設備大幅再編によって「最低限の標準装備化はできた」と語る田中社長。自動車分野以外の最大8インチサイズまでの一般管(SGP、STK、STKR)で、小ロット・短納期対応を強化。「百貨店」的大手メーカーの販売形態に対し「スーパーマーケット」「コンビニエンスストア」的役割を担う「スーパー・コンビニ」体制の確立を目指す。

 これまでの製造サイズレンジと品種の拡充に加えて、現在積極的に営業スタッフも増やしており、商圏拡大を検討中。また、親会社である三井物産スチールからも積極的に研修や工場見学を受け入れており、拡販戦略を共有していく。

 (3)高機能商材の開発

 STKやSTKRの防錆塗装に環境に優しい速乾水溶性ニスを使用して独自の技術でコーティングを施す「Nコートシリーズ」は、乾燥した表面ながら一次防錆・作業性に優れた製品。防錆油を使わないため環境対応面や作業効率面でのメリットがあり、需要家から好評を得ている。

 縞鋼板を母材にした「チェッカーパイプ」は、一般の鋼管に比べ摩擦が大きいため、手すりや基礎杭、トンネル掘削用資材などの建築土木向けに適している。一般管の丸形・角形鋼管の全サイズが製造可能範囲となっている。

 両製品、技術はともに10年以上前に開発。今後の商権拡大のためには、農ビ管だけでなく、一般管の分野でもオンリーワン、高機能商材の開発が鍵となる。

 高炉系、独立系大手以外の第三極の中で唯一の〝商社系〟として、独自の商品・技術戦略を展開する新三興鋼管。一方で今後は、同業他社との相互メリットを前提としたソフトアライアンスの可能性についても模索していく。こうした青写真を描くのは商社系の得意分野とも言える。三井物産グループ他社のスタッフを積極的に工場に招待するなどグループ会社との交流も密にし、商社系の強み、メリットを最大限に活用。一般管の〝スーパー・コンビニ〟新三興鋼管の挑戦は、まだまだ続く。

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