金属行人(3月12日付)

 岩手県・釜石市の「鉄の歴史館」は小高い丘の上にある。ここから海を見ると、目に入るのは沖合の防波堤。ギネスブックに認定された世界最大水深のもので、7年前の震災で津波によって損壊したが、この3月で完全復旧を果たす▼釜石市内でも復興は着々と進んでいる。市の中心部では被災地が再開発され、4年前にはイオンタウン釜石が開業。近隣自治体からも買い物客を集め賑わう。昨年12月には市民ホール「TETTO」がオープンし、先月にはここで「近代製鉄発祥160周年記念フォーラム―鉄とともに」が行われた▼そんな鉄の街・釜石らしい震災時の話を歴史館で聞いた。津波が押し寄せた際、新日鉄住金・釜石製鉄所が備蓄していた発電用石炭が避難の一助になったという。市内の所々で保管された石炭の山が防波堤や高台のような役割を果たし「これで助かった市民もいるんですよ」と。当時は石炭価格が急騰していた時期で、普段より多めに備蓄されていたことも「減災効果」を高めたそうだ▼冒頭の防波堤も三陸の津波経験を踏まえ約30年かけ2009年に完成していたもの。完全には防げなくとも大津波を弱める効果はあった。復旧と共に徐々に遠くなる震災の記憶。これもしっかり歴史に残し伝えなければならない。

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