イチローの恩師・新井宏昌氏が説く打撃論 「動く球の対応」と「日本人の持つ技術」

パドレスで臨時コーチとして指導した新井宏昌氏【写真:西山和明】

ダイエー時代の教え子・松中氏と一致「引きつけると…」

 3月3、4日に開催された「ENEOS 侍ジャパンシリーズ2018 日本vsオーストラリア」で、野球日本代表「侍ジャパン」はオーストラリア代表を相手に2連勝を飾った。

 国際大会になると決まって話題に上がるのが「ボールの違い」と「動くボールへの対応」だ。現役時代は南海や近鉄で通算2032安打を記録し、引退後はオリックス、ダイエー・ソフトバンク、広島で打撃コーチや2軍監督などを歴任した新井宏昌氏は、昨秋と今春に米パドレスの臨時コーチを務めた。イチロー、川崎宗則、丸佳浩らが開花するきっかけを作った名コーチは、「動くボールへの対応」について独自の見解を示す。

「この春、僕がパドレスにお伺いしている時に、松中信彦がアリゾナへ勉強に来たんですよ。何を勉強しに来たかというと、国際大会で日本の打者が小さく動く球をうまく捉えられない、結果を出せない原因を探ろう、ということなんですね。日本では、一般に動く球は手元に引きつけて打ちなさい、と指導する。でも、曲がるボールを引きつけて打っていたら打球が詰まってしまう、というのが、僕と彼の一致した意見なんです。

 極端な話を言うと、曲がる前に打つくらいな感じでいいと思うんです。どうしても変化球は引きつけて打たなければいけない、と考えてしまう。それが詰まる原因であって、曲がる前に打ってしまうくらいの気持ちを持っていたら、変化球でも詰まらないんですよ。動く球に対しても考え過ぎないで、動く前に打ってしまえばいい。日本の選手は考え過ぎてしまうので、外国人投手の球が打てないんじゃないかって、松中と話していました」

 日本の打者が変化球を引きつけて打とうとするのは「技術があるから」だという。パドレスの臨時コーチとして、メジャーからマイナーまで数多くの打者のスイングを間近で見た新井氏は、「バッティング技術は日本人は負けないんじゃないかと思います」と話す。

米の現場で実感した「日本人のバッティング技術」

「メジャーでスーパースターって言われる人は、力も技術もあると思うんですけど、それ以外の選手には、日本人は技術では負けないと思います。アメリカでプレーする選手は、パワーは日本人より遙かにある。だから、バットの先端や根っこでボールを打ったとしても、打球が内野手の頭を越す、あるいはポール際にホームランを打つことがある。この前、牧田(和久)と話したんですけど、『僕はボールがバットの芯を外した時は打たれたとは思っていません』と言っていました。心配することはないな、と思いましたね。

 逆に、日本人は技術があるから、ボールを引きつけてうまく打とうとする。メジャーの人のように『えいっ、いってしまえ!』と思い切りバットを振る方が、いい結果が出るかもわからない。ストライクゾーンで変化するのはあまり変化を気にしないで、しっかりバットを振ってみたらどうかなと思いますね」

 反対に、育成の過程にある若いマイナー選手の中には、日本人のような技術を身につければ大ブレイクするのでは、と思わせる才能も多いという。パドレスで球団特別アドバイザーを務め、近鉄時代には新井氏とチームメイトだった野茂英雄氏とも意見が一致した。

「若くて才能豊かな選手は、日本で2年くらい試合に出て、いろいろな変化球に対応できる技術を身につけてメジャーに戻る。そんな球団間の交流ができたら面白いと思うんですよ。もちろん契約のことがあって、代理人がすぐに賛成はしないでしょうが。年齢を経てから日本に来る選手が多いので、日本で真面目にプレーして、その後でメジャーに昇格するんだっていう気持ちの若い選手を送り込んでもらってね。

 野茂は、10代の選手を日本で育成したら、むっちゃ面白い選手がいっぱい出るのになっていうことを、よく言っています。日本の選手をメジャーに派遣したり、そういうシステムをうまく作れれば面白いんじゃないかな、と思いますね」

 日米それぞれの打者にある長所と改善ポイント。既成概念にはまることなく、様々な角度からアプローチすることで、よりスケールの大きな選手、よりグローバルな選手が育つのかもしれない。

(Full-Count編集部)

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