【現地ルポ】〈東洋鋼鈑のトルコ表面処理合弁 生産開始から1年〉操業水準、着々上昇 「下松」コンセプトに設備選定・配置

 東洋鋼鈑とトルコの電炉メーカー、トスヤル・ホールディング(ファット・トスヤル会長)は、合弁会社「トスヤル・トーヨー」(同)を通じて同国南部のオスマニエ県で表面処理鋼板工場を運営している。昨年2月にブリキとカラー鋼板の生産を開始したのに続き、5月からはホットコイルの酸洗、冷間圧延からの一貫生産を展開。月を追うごとに操業水準が上がり、市場での存在感を高めている。

 地中海に面する空の玄関口、アダナ空港から車で高速道路を走ること東に1時間。なだらかな起伏の田園風景を抜けると、落花生の栽培が盛んなオスマニエ県の街並みが広がる。視線を先に向けると小高い丘にトスヤルHDを象徴する緑色の工場がそびえる。

 敷地面積は25万平方メートルで、工場は計五つの棟からなり、主にPLTCM(酸洗・冷間圧延(タンデム)ライン)▽CGL(溶融亜鉛めっきライン)・CCL(カラー鋼板ライン)▽CAL(連続焼鈍ライン)・BAF(バッチ焼鈍ライン)▽ETL(電気錫めっきライン)といった各機能を担う。品種によって異なるものの、最も薄いサイズで0・12ミリまでの板厚に対応する。

 生産ラインをめぐっては、これまで東洋鋼鈑とトスヤルHDが培ったノウハウを最大限生かした造りになっている。東洋鋼鈑の主力製造拠点、下松事業所(山口県下松市)のコンセプトをベースに、両社が得意な上・下の工程に応じて日欧米の設備を選定したのは一例。年産能力は100万トンに上り、冷延鋼板をはじめ、電気錫めっき鋼板(ブリキ)、溶融亜鉛めっき鋼板、カラー鋼板を生産する。

 構内では800人程度の社員が4直3交代で勤務する。平均年齢は30代前半。うち職長クラスを中心に約100人が下松に渡り、研修を通じてスペシャリストの養成を受けた。高い精度が求められるラインの要には下松から派遣する日本人の技術者を配置し、互いの連携が早期の立ち上げを導いた。東洋鋼鈑が長年掲げる「高品質な製品の安定供給」の実現に向けて、現在も技術者がさらなる高みを目指して前線部隊を率いる。

 もっとも現地採用した大多数の社員の貢献が欠かせない。体系的なプログラムを通じて定期的に教育を実施したり、職制単位で横断的に定量、定性の目標や情報を共有する場を設けたりするなど「(部署や肩書きの垣根を越えた)スムーズな意思疎通に重きを置く」(ハーカン・オズコックCEO)取り組みにかじを切る。

 各ラインではモニターを設置し、リアルタイムで作業実績を映し出す。原板や副資材の価格変動に向き合う業態が故に「(自分たちが携わる工程や製品の利益率をはじめ)一人ひとりに採算に対する高い意識を植え付ける」(同)狙いだ。同時に工場の外壁に「リスクを取るな、対策を取れ」との標語を刻むなど、至る場所で視覚的に「安全」を注意喚起する細やかな工夫を凝らす。

 トスヤル・トーヨーは、現在保有する生産能力の上限に相当する出荷量の早期達成を目指す一方、将来的な拡張の余地を残す。工場を挟む隣接地はともにトスヤルHDが保有しており、うち一方の隣接地の横では同社の線材工場が操業する。今後の展開次第であらゆる活用法が想定される。

 ストーブ用のパイプ製作を始めた1952年から70年近く。「世界で『トスヤル』と名前を出せば『鉄鋼会社』との反応が来る」(トスヤル会長)規模にまで拡大するトスヤルHDと、日本で民間初のブリキメーカーとして誕生後、80年超の間で圧延や表面処理など幅広い技術を培ってきた東洋鋼鈑の一大事業がアジアとヨーロッパを結ぶ交通の要衝、トルコの地で両社の成長の源泉を紡ぐ。(トルコ南部・オスマニエ=中野裕介)

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