【FCV「未来」へ向け始動】トヨタ自動車など11社、水素ステーション普及へ新会社 普及促進の課題は「コスト低減」

 自動車のCO2排出削減の切り札として期待される「燃料電池車」(FCV)の普及に向け、国内の自動車メーカー、エネルギー産業、商社などの動きが活発化してきた。FCV向け水素ステーションを整備するため、トヨタ自動車、豊田通商などが新会社「日本水素ステーションネットワーク合同会社(略称・JHyM=ジェイハイム)」を設立することで合意した。課題は数多いが、普及のカギとなるのは「コスト」。製造業のコストアップがクローズアップされる中、どのようにコストを削減し、次世代を見据えた流れを形成できるのか。

 自動車の電動化(PHV、EV、FCV)は、時代の要請。当面のゴールである2030年に向け、強制的に電動車が一定の比率で普及しなければならない、という風潮が世界的なものとなり、国によってはガソリン車の販売を禁止する方向にある。

 自動車メーカーにとっては、既存の生産プロセスの大きな変革を迫られるとともに、軽量化などを背景とした「マルチマテリアル化」が進むことになる。

 素材との兼ね合いでいうと、電気・磁気を扱う開発テーマが増えるため、これまで以上に電磁鋼板、磁性材、磁石などを視野に入れた開発が求められる。

 こうした中、トヨタ自動車、豊田通商、日産自動車、本田技研工業、JXTGエネルギー、出光興産、岩谷産業、東京ガス、東邦ガス、日本エア・リキード、日本政策投資銀行の11社は、FCV普及に向け、そのエネルギー源である「水素」の供給拠点である「水素ステーション」の普及拡大に向け、新会社を共同で設立することを決めた。

 新会社は、資本金5千万円で、社長には菅原英喜氏が就任。本社を東京都千代田区九段南のトヨタ九段ビル内に置き、事業期間は2027年度までの10年間を想定。

 普及のカギになるのは「コスト」。新会社設立の記者会見でも、主なテーマとなったのは「どうやってコストを下げるか」。

 まずは、ステーション当たり4~5億円かかる建設コスト。これについて会見では「欧米に比べ高い品質基準(使用素材など)を緩和することや、人材コストの削減などを検討する」(谷本光博岩谷産業社長)ことなどが挙げられた。

 使用素材の品質基準については、ステンレス鋼など鉄鋼製品にも大きく関係しており、今後の動向が注目されるところ。

 トヨタ自動車の寺師茂樹取締役副社長は「(普及するかどうかは)基本的にはマーケットが決めること」としながら「顧客が『買ってみたい』という動機付けをどういうポイントでしてくれるのか。単にガソリンからFCVにという変化だけではだめだろう」「EVとFCVは対立関係にはない。いずれも電動車であり、世代を重ねることでコストが下がっていく」などと語った。

 また、FCV等の普及については自家用車よりむしろ、トラックなど商用車やフォークリフトなどの産業機械での普及の方が早いのではないか、との意見も出た。

 さらに、水素製造そのもののコスト削減が重要とする声もあり、新会社ではそうした流れをよく見てインフラ事業者が自立的に事業運営できる基盤を構築する。

 新会社の業務は、ステーション整備方針を公表し、インフラ事業者の整備方針に沿って計画を策定。稼働後に運営業務をインフラ事業者へ委託する。

 また、金融投資家からの融資などにより、政府の補助金なしでも自立的に採算を確保できるビジネススキームを構築する。

 HV普及時にもコストの問題は大きくクローズアップされたが、今ではコストも下がり広く世間にHVが普及している。ただし、電磁鋼板などはコスト低減に協力して価格体系がねじれた格好になっている点も指摘されており、今後、鋼材価格上昇の中で抜本的な見直しも必要視されそうだ。

© 株式会社鉄鋼新聞社