【鉄鋼春闘、60歳以降の就労問題】「検討の場」設置へ まずは労使で課題抽出

 今春闘で、賃金改善と並び重要なテーマとなったのが「60歳以降の就労問題」。基幹労連は産別統一要求の中で、「65歳現役社会」を掲げ、今年を労使間で話し合いを始めるスタートの年と位置づけた。高炉大手の労働組合はこれに沿って、「65歳現役社会の実現に向けた労働環境の構築」などを要求書に盛り込んだ。経営側は、この要求に対し、労使での検討の場設置などを回答する。制度設計などはこれからだが、組合側が提起する「60歳以降問題」について一定の理解を示す。

 60歳以降の就労問題が再び労使間のテーマ浮上したのは、2021年度以降の60歳到達者から65歳まで無年金になるという『2021年問題』があるからだ。

 鉄鋼業界では多くの企業が2000年代に入って、「シニア雇用制度」などの名称で定年退職者を対象とした再雇用制度を導入。現在は本人が希望すれば原則として、年金の満額支給開始まで雇用する制度が敷かれている。

 現行の再雇用制度でも「21年問題」への対応は可能だが、導入当初と比べ変わってきたのがシニア従業員への期待度。再雇用制度導入当初は年金減額などへの対応が課題だったが、少子高齢化の進展や再雇用制度の対象者が増える中で、今では現場力を維持・向上する上でシニア従業員の力が欠かせなくなっている。

 組合側はこうした現状認識のもと、「65歳現役社会」の実現を掲げた。ただ、制度設計には時間がかかるため、今年を「スタートの年」と位置づけ、まずは労使間での認識共有を目指した。ただ、「現行制度の見直しで対応するのか」、「定年延長など新たな制度の構築が必要なのか」といった具体論に関しての議論はこれからだ。

 経営側は今回の春闘要求に対し、一定の理解を示した上で、「検討の場」設置などを回答する。組合側の主張に耳を傾ける場を設け、まずは労使間で課題を抽出していこうという姿勢だ。例えば、シニア世代の人生設計に対する思いが多様化している点をどう考慮するかなどが課題として浮上しそうだ。

 60歳以降の就労問題を巡っては、定年延長の議論も浮上するが、鉄鋼大手の労使は当面、制度ありきの議論ではなく、直面する課題をどう解決するかの議論を先行させる見通しだ。

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