米国の「232条」、広がる「期待」と「不安」 USスチール、業績上方修正

欧州「輸入1300万トン増」警戒

 米国で鉄鋼輸入を規制する「通商拡大法232条」の発動が決まり、各国の鉄鋼メーカーには悲喜こもごもの反応が広がっている。輸入材を締め出せる地場ミルは「期待」する半面、欧州などでは「不安」の声が高まっている。現地時間23日の発動に向け、今後も応酬が続きそうだ。

 米高炉大手のUSスチール(USS)は13日、2018年12月期の業績でEBITDA(利払・税引・償却前利益)が約17億ドルになるとの見通しを発表した。前年は10億8700万ドル(調整後)を上げ、今期は15億ドルと見込んでいた。今回、2億ドル上方修正した形になる。

 USSの業績が上振れるのは「232条」の効果だ。同社は232条による25%の追加関税で輸入鋼材が減ることを見込み、グラニット・シティ製鉄所の高炉1基を再稼働すると決定。これで月間10万トンの増産となり、今年下期の業績拡大につながるとしている。

 加えて米国の鋼材市況が急騰していることも米ミルには恩恵をもたらしそうだ。232条の原案を商務省が公表した2月下旬から米市況は一段高となっており、本紙と提携する英カラニッシュ調べによると先週には熱延コイルがショートトン当たり820ドル前後と1カ月で100ドル値上がりした。メトリックトン換算では約900ドルとなり、アジア市場と比べ250ドルほど高い「独歩高」が進んでいる。

 一方、トランプ大統領から自動車関税などで不公平と「口撃」されている欧州では警戒感が強まっている。欧州鉄鋼協会(ユーロフェル)は13日に緊急会見を開き「欧州でも昨年は鉄鋼輸入が(米国の3500万トンを上回る)4千万トンに達し過去最高だった」と指摘。232条の影響で、輸入材がさらに1300万トン増える可能性があるとしている。

 欧州勢は輸入増だけでなく対米輸出への影響も警戒する。北欧の高炉メーカー、SSABは米国事業で240万トンの年産能力を持つが「米工場で造れない高級鋼はスウェーデンやフィンランドから25万トン輸出している」と影響を懸念。オーストリアのフェストアルピーネは売上高に占める対米輸出は3%としながらも、米国で造れない自動車向けの高張力鋼板に継目無鋼管の輸出に支障が出かねないとしている。

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