大林組、カーボンナノチューブの曝露実験 宇宙での試験体回収

 大林組はこのほど、静岡大学及び有人宇宙システムと共同で進めていた航空宇宙産業向け先端材料、カーボンナノチューブ(CNT)の宇宙環境曝露実験における試験体を回収し損傷度合いを検証した。未来の宇宙インフラ建設構想(宇宙エレベーター建設構想)の実現に向け実験を進めていたもので、今後は回収した試験体に放射光測定による詳細分析を進め、原子構造レベルでの損傷メカニズムを究明するとともにCNTの損傷抑制に向け耐久性向上対策技術を開発していく方針。

 この実験は宇宙航空研究開発機構(JAXA)の簡易曝露実験装置の利用テーマとして採択。国際宇宙ステーション(ISS)「きぼう」の日本実験棟の船外実験プラットフォームを利用していた。CNTは鉄筋の4分の1~3分の1という高い軽量性に加え、高機械強度、高弾性力、高電流密度耐性、高熱伝導性など多くの優れた性質を持つ材料。宇宙機や航空機の構造体や圧力容器の高強度化や軽量化、高い導電性を活かした自動車の配線材料などへの適用が考えられている。

 建設用材料としては鉄筋コンクリート造などにおける鉄筋の代替利用や橋梁を支えるケーブルへの利用が考えられ柱や梁の断面最小化、構造物の軽量化といった効果が期待できる。今回の実験では異なる条件で3種類の試験体を曝露。ISS進行方向の前面で曝露したものが背面で曝露したものよりも大きく損傷していた。

 この損傷は原子状の酸素がCNTに衝突して生じたものと考えられ、秒速9キロメートルで進むISS船外の曝露環境では前面の方が背面よりも損傷しやすい環境であることを確認できた。さらに、背面で異なる曝露期間の試験体を比較したところ損傷度合いに差異がほとんどなく、期間の相違の与える影響が少ないことも確認。回収した試験体に強度試験を実施したところ、前面が背面よりも引っ張り強度の値が低下していたという。これらの結果は地上での曝露条件試験と高い相関性を示し、地上での試験が宇宙の複合環境下での損傷状態を類推するのに有効であることも確認した。

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