【MLB】失敗から学んだグリエルを支えるサポート 世界一軍団の絆を米メディア特集

アストロズのユリエスキ・グリエル【写真:Getty Images】

昨季WSで差別行為、失敗から学ぶグリエル

 2月末に左手有鉤骨の除去手術を受け、開幕を故障者リスト(DL)で迎えることになったアストロズのユリエスキ・グリエル内野手。回復まで5~6週間ほど掛かる見込みで、メジャー復帰は早くても5月以降となりそうだ。だが、復帰が決まっても、グリエルはすぐに試合出場することはできない。昨年ワールドシリーズ第3戦で当時ドジャースだったダルビッシュ有投手に対して行った差別的行為により、5試合の出場停止が科せられているからだ。

 ワールドシリーズ優勝を果たしながらも、同時に反省と勉強のオフを過ごしたグリエルと、他意のない過ちを犯したチームメイトをサポートするアストロズ選手について、米スポーツ専門メディア「ブリーチャー・リポート」が特集記事で伝えている。

 アストロズは昨季、ドジャースとワールドシリーズ第7戦まで一進一退の攻防を繰り広げ、悲願の球団史上初となる世界一に上り詰めた。だが、思わぬ形で熱戦に水を差してしまったのが、第3戦に先発したダルビッシュから本塁打を放ったグリエルが、重大な差別行為に当たるとは知らずに取った行為だった。

 母国キューバ以上にアメリカ合衆国という国は、人種差別に対して敏感な国だ。記事の中で、グリエルは「大きな問題になるとは思っていなかった」と明かしているが、瞬く間に全米に広がり、試合が終わる頃には大問題に膨れあがっていた。グリエルはすぐに謝罪し、ダルビッシュは「完璧な人間はいない。ここから学んでくれれば」と声明を発表。マンフレッドMLBコミッショナーはグリエルに2018年初戦から5試合の出場停止処分、そして8時間の講習受講を義務づけた。

 オフに入ってから、グリエルは世界一の喜びを感じると同時に、自分の犯した過ちに「取り憑かれ、何度も考えた」と明かす。オフ中に受講した講義でアメリカの道徳規準を学び、家族と一緒に住むマイアミに住む多くのキューバ人やキューバ系アメリカ人にも「キューバの文化がどこでも通用するわけじゃない。違う国には違う基準がある。それは尊重しないといけない」と伝えたという。

ダルビッシュの寛大な姿勢に「いまだに感謝している」

 ダルビッシュの寛大な対処の仕方に「いまだに感謝している」というグリエルだが、この一件の後には2014年にプレーしたDeNAの日本人選手たちもメッセージを送ってくれた。「僕自身、僕の性格、そしてどんな人間なのか、自信を与えてくれた。個人的には気にしていないよって言ってくれて、少しだけ気分が軽くなったんだ」とサポートに感謝した。

 誰よりも失意のグリエルをサポートしてくれたのは、アストロズの仲間だった。ワールドシリーズでMVPに輝いたジョージ・スプリンガーは「彼のことがたまらなく好きなんだ。ここ(アストロズ)にいるみんながそうだ。間違いを犯した。それは認める。でも、彼はそういう男じゃない。心から謝ったし、そこから前進できることを願うよ」と話したそうだ。

 先発の柱、ダラス・カイケルとジャスティン・バーランダーは、グリエルが責任を感じすぎないように「(5試合出場停止でも)自分が代わりに一塁を奪ってMVP候補になってやる」とジョークを飛ばしているという。また、救援のトニー・シップは「彼は間違ったことをしたけど、一生この件に付き合うことにならなければいい。だって、彼はこういう人物じゃないんだ。全くね」と、1日でも早く過去のことになることを願ったという。

 周囲の温かいサポートを受けるのは、グリエルの人柄があるからこそ。間違いは間違いとして受け止め、成長した姿を見せることが、彼らへの恩返しになるのかもしれない。

(山岡則夫 / Norio Yamaoka)

山岡則夫 プロフィール
 1972年島根県出身。千葉大学卒業後、アパレル会社勤務などを経て01年にInnings,Co.を設立、雑誌Ballpark Time!を発刊。現在はBallparkレーベルとして様々な書籍、雑誌を企画、製作するほか、多くの雑誌やホームページに寄稿している。最新刊は「岩隈久志のピッチングバイブル」、「躍進する広島カープを支える選手たち」(株式会社舵社)。Ballpark Time!オフィシャルページにて取材日記を定期的に更新中。

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