「僕は社会人になれていなかった」―阪神西岡の新たな挑戦「今すごく楽しい」

インタビューに応じる阪神・西岡剛【写真:荒川祐史】

逃げずに向き合い、得た強さ「僕は這い上がらないといけない」

 2016年に負った左アキレス腱断裂という大怪我から完全復活を目指す阪神・西岡剛。リハビリを続ける中で、自身の弱さと向き合い、後悔の少ない人生を送れるような行動を取るという目標を掲げた。2017年のキャンプでは「7割くらいのダッシュ」ができるようになり、今春は何の支障もなく練習に参加し、ポジション争いを繰り広げている。怪我は癒えたが傷痕は残った。これまでと違った張りを感じるようになった体と向き合いながら、「正直どういう成績が残せるか、自分でも分からないんです」という。それでも「野球としっかり向き合って、もう1回頑張っているっていうのだけは誓えます」と胸を張る。

「今年の目標はって聞かれても、やってみないと分からない。それは1年を通してやるしんどさ、難しさ、怖さっていうのを、僕は人以上に身に染みて感じているんで。開幕しても、今日の試合は終えてみるまで分からない。無事怪我なく終えて、次の朝起きた時に、今日もまた試合に出られるって思う1日1日の戦いですね。

 現状として、オープン戦で結果を残して、監督やコーチが『西岡を使いたい』って思ってくれても、1シーズンで何試合持つんだろうっていう信用はゼロに等しいと思うんですよ。今日試合に出て、明日試合に出て、4月乗り越えた、5月乗り越えた、6月も乗り越えた。そうやって1年戦って、初めて来年2019年の構想に西岡を入れられるなって状況だと思うんです。僕はそこから這い上がらないといけないので」

 2月の宜野座キャンプ。プロ16年目を迎える西岡はベテラン扱いを受けることはなく、若手選手と同じメニューをこなしながら、遊撃のポジションを争った。アキレス腱断裂という大怪我から復帰するまでの時間で、改めて野球と真剣に向き合うようになった33歳は、「上を目指すだけなんで野球がすごく楽しいんです」と笑顔を見せる。

アキレス腱断裂は「まだ乗り越えていない、戦っている最中」

「鳥谷さん、糸井さん、福留さんのようにレギュラーを獲った選手は、自分との戦いでやっていかないといけないから、すごくしんどい作業なんですよ。でも、僕はレギュラーを獲ったろ、という立場。昔も、そう思って野球をやっていた頃が一番楽しかった。僕はもう1回それを経験できている。しかも、若い時はただ上を見るだけだったけど、今は上を見ながらも、体をどうにケアするべきか、どうトレーニングするべきか、反省と気付きを得た状態で毎日を過ごせているので、また違った楽しみがあるんです。

 アキレス腱を切った後、多分大体の人は一塁になったり、代打になったりだと思うんです。でも、体も絞れて動けるようになって、秋のキャンプでもアピールできたから、二塁からもっと動きが大変なショートに挑戦させてもらえているんだと。僕自身も自信というか、いけるんじゃないかっていう希望が見えている。そんな甘くないのは分かっている中での戦いです」

 アキレス腱断裂は「まだ乗り越えていない、戦っている最中」の壁だという。だが、逃げることなく、受け止め、立ち向かう姿に嘘はない。「人として強くなれたと思う」。そう西岡は言う。

「自分が一番分かるのって僕自身じゃないですか。ランニングで力抜いて走っても、周りからは分からないけど、自分には分かる。そこに嘘がなければ、一生懸命やれば、見てくれる人は見てくれていると思います。

 逃げたら、そこで止まってしまう。もし今年、右のアキレス腱が切れても、僕はまたトライすると思います。取ってくれる球団はないと思うけど、自分でトレーニングをして、次の年トライアウトを受けたり、自分ができると思う限り、勝負し続けるだろうなって。今、野球がすごく好きになりましたね。

 野球選手である前に、いち人間であり、いち社会人。僕は社会人になれていなかった部分がたくさんあった。今、どれだけ言葉で思いを伝えても、結果を残さないことには意味がない。人として気付かされたことを大切に、後悔の少ない日々を過ごしていきたいと思います」

 2018年。嘘なく生きる西岡剛がどんな結果を残すのか。期待をしてもよさそうだ。

(Full-Count編集部)

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