津波情報で自動出動するドローンが避難呼びかけ! 仙台・旧荒浜小で実験 ブロックチェーン技術活用の情報共有、画像で人物検知  仙台市は3月19日、津波発生情報を受けてドローンが自動的に出動し、避難を呼びかけたり、人影をとらえて避難状況を確認したりと、現場での活動を想定した実験を、仙台市若林区の震災遺構、旧荒浜小学校で実施した。通信、ITなど大手を含めた多くの企業が参加し、4つのミッションはすべてクリアした。今後、実装に必要な課題を洗い出す。

ドコモ、ブイキューブR、パナ、NEC、富士通など、4つのミッションをクリア

 実験は仙台市が平成28年8月に締結した「仙台市及びNTTドコモによるICTを活用したまちづくりに関する連携協定」の取り組みの一環。ブイキューブロボティクス、パナソニック、NEC、富士通なども加わった。
今回は設定された4つのミッションは、①自動出動、②LTE回線による呼びかけ、③人物検知と画像鮮明化、④防災行政無線での呼びかけーの4点だ。

①自動出動
Jアラートが大津波警報を発したと想定し、津波情報を受信したドローンが自動で出動して海岸まで飛び、自動音声で避難を呼びかける。そのさい、ドローンの搭載カメラがとらえた映像をリアルタイムで複数拠点に中継し、撮影位置はリアルタイムで地図上に示す

②LTE回線での遠隔呼びかけ
自動出動したドローンが海岸で逃げ遅れた人影を発見したことを想定し、離れた現地本部から海岸のドローンに搭載したスピーカーを通じて呼びかけて避難を促す

③人物検知と映像鮮明化
ドローンがとらえた映像からAIで人物を検知し、とらえた画像を鮮明化する

④防災行政無線での避難広報
ドローンが防災行政無線の受信機を搭載し、防災行政無でも避難の呼びかけができるような仕組みを整備する

閉校して震災遺構となっている旧荒浜小学校の校舎を背景に浮上するドローン
フライトしたドローンを見送る参加者。自動飛行で海岸に向かい避難を促すアナウンスを流した

ブロックチェーン技術で情報を分散共有

 実験では午前9時45分にメールで大津波警報を受信すると、実証実験本部(旧荒浜小学校)で待機していたドローンが自動で離陸し、本部から約800メートル離れた深沼海岸までフライト。機体に搭載したスピーカーから「巨大な津波の恐れ。ただちに避難してください」とアナウンスを流すことを確認した。
 また飛行中のドローンが搭載カメラでとらえた映像は、リアルタイムで本部と、仙台市役所それぞれのモニターに中継された。同時にリアルタイムでドローンの位置が地図上に表示されることも確認された。
 スピーカーには、パナソニックがドローンに積むため、軽量化、省エネなどの工夫を凝らし、移動体からの拡声を重視する技術を搭載した。
 またドローンからの情報のマッピングは富士通が担った。本部、市役所の複数拠点で情報を共有するデータ流通、利活用基盤には、富士通のブロックチェーン技術を活用した。ブロックチェーンを活用することで、ネットワークでつながっている複数の拠点は、それぞれが保有する情報を、一箇所に集約させることなく共有できる。今後、チャット機能も連動させることで、情報共有者がいっせいにひとつの課題解決にかかりっきりになる無駄をなくしたり、役割分担や手助けしたりすることも可能になるという。
 遠隔呼びかけでは、ドローンに搭載したスピーカーから、本部の職員の声を伝えられるかどうかを確認。人物検知では、ドローンの映像をAIで人物かどうかを判定できるかどうかを試してみたところ、モニター上に、人物を示す表示が浮かびあがり、人の目を補完する技術として期待できることを確認した。NECの映像鮮明化技術で、ドローンのとらえた映像で、人が走っているのか、転んでいるのか、といった様子まで把握できる可能性があることがわかった。
 防災行政無線は基地局がない場所などの対応に備えたもの。ドローンにあらかじめ防災行政無線の受信機を搭載しておくことで、ドローンによる避難広報活動の範囲を広げることが可能なことを実証した。

富士通がブロックチェーン技術を持ち寄って情報共有を可能にした。ドローンからのデータは本部のこのモニターと、仙台市役所危機管理室おモニターで共有された

ブイキューブR製ドローン、抜群の安定性 伊藤副市長「二次災害防止に有用性」

 実験に使った機体は主にブイキューブロボティクス製の、6つのアームを持つ機体。本体は5キログラムで、バッテリー、スピーカーなどの送致をつみ総重量が9・7キロでフライトした。実験開始から風が強まったが、地上では安全地帯を確保するために置かれたコーンが風で吹き飛ばされることが何度となくあったが、ドローンのフライトは揺れることも一切無く、抜群の安定性を見せた。
 仙台市の伊藤敬幹(ゆきもと)副市長は「実際の運用をにらんでシナリオを組んだ。ドローンには、危険な場所にも飛んでゆけることで人が二次災害に遭うことを防いでくれる特徴に有用性がある。スピーカーの軽量化、バッテリーの持ちなどは課題で、これからも検討する。それらをさらにブラッシュアップし、組み合わせることで実用に道をひらきたい」と話した。
今回、ドローンの運用を担ったブイキューブロボティクスは複数のLTE基地局をまたいでセルラードローンを飛行させることを他にさきがけて成功させた実績を持つ。出村太晋代表は「技術的に可能と分かってはいても、実際に使えるとは限らないことは多くある。今回は、それらの技術が実用環境でも使えると実感できたことが大きな収穫だ。これからも社会に役立つことことに向けて取り組みを進めたい」と話した。
 実験に参加した企業は、2016年10月に発足した、仙台市のドローンコンソーシアム、一般社団法人ドローンテックラボの会員でもある。ドローンテックラボの事務局長を務めるブイキューブロボティクスのエバンジェリスト、大西清氏は「社会課題の解決には企業の枠を超えた知恵や技術を持ち寄ることが大切で、ドローンテックラボにはそれを感じている企業が入っている。震災復興という、ひとつにまとまるのに相応しいテーマがあり、それに向けて力をあわせることができたことが、今回の実験の隠れた成果だと思う」と述べた。
 仙台市は「津波避難広報ドローン」の実現に取り組んでいて、今回は関連する実験としては4度目だ。「自動離陸・自動飛行」「避難広報」「ドローン航路・画像マッピング」「人物検知」「遠隔制御」をテーマにしており、今後もこれらの技術を組み合わせて、完全自動津波避難広報ドローンを目指す方針だ。

実験で抜群の安定性を見せたブイキューブロボティクスのドローン
実験終了後に囲み取材に応じる伊藤副市長。成果に手応えを感じ、実装に向けたさらなる検証について抱負を述べた
飛行中のドローンの位置と撮影した映像がリアルタイムでモニター表示される

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