金属行人(3月22日付)

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 先日ふと手にした書籍「ゼロからトースターを作ってみた」(トーマス・トウェイツ著、飛鳥新社)が面白かった。身の回りの製品が〝どうやって作られたか〟。そんな誰もが抱く疑問に英国の学生が挑み、実際にパンを焼くトースターを原料から作った記録だ▼著者はまず既製品のトースターを解体し、必要な素材を鋼鉄とマイカ、プラスチック、銅、ニッケルと解明。鉄づくりに取り掛かり、休止した鉱山から鉄鉱石をスーツケースに入れて持ち帰る。庭にコンクリートパイプやゴミ箱で作った溶鉱炉を設置し、失敗しつつも、何とか電子レンジで精錬したコイン大の鋼の製造を成功させる▼著者が「鋼鉄を作ることができれば、このプロジェクトは成功したも同然」と言うように、鉄づくりがいかに大変かよく分かる。鋼の製造に成功した後、著者は街灯やグレーチングなど街中に鉄鋼製品があふれることに圧倒され、大量生産される製品が安過ぎる価格で販売されていると実感する▼モノの価格は需要と供給で決まると言うが、製造過程を考えると鉄は安いと感じる。間もなく4月。新年度からのさまざまなコスト高で鉄鋼メーカーは厳しい春を迎える。コスト高を訴えることは大事だが、原点に立ち返って鉄の価値を理解してもらうことも大切だろう。