「無念晴らす」耳傾けた1500遺体 長崎県警の検視官、大迫警部勇退へ

 遺体や現場を詳しく調べて事件かどうか見極める検視官。長崎県警の最年長検視官で、リーダー的存在だった捜査第1課の大迫良弘警部(63)が今春、一線を退く。これまでに検視した遺体は約1500体に及ぶ。犯罪を見逃さないために、災害や事件の現場で死者たちの声なき声に耳を傾けてきた。
 検視官になるには、警視で10年以上、警部は8年以上の刑事部門の捜査経験が必要だ。大迫さんは警察大学校で70日間、法医学などの研修を受け、2011年に検視官になった。県警には現在、大迫さんを含め6人の検視官がいて、現場に駆け付けて事件の疑いがないか目を光らせている。
 大迫さんは五島市出身。1979年3月、県警に警察官として採用された。82年7月、長崎大水害で遺体の検視班に加わり、初めて検視の仕事を経験した。
 2011年3月に発生した東日本大震災では、県央担当の検視官に任命された直後の4月上旬、犠牲者の検視や遺族対応に当たる県警広域緊急援助隊のリーダーとして10日間、岩手県の大船渡署に派遣された。
 現場は壮絶だった。安置所の遺体は腐敗が進み、若い犠牲者も少なくなかった。「ベストを尽くそう」。同僚に言葉を掛け、朝から日没まで、所持品や歯型などから身元を特定する作業に黙々と取り組んだ。
 最もつらかったのは、年端もいかない子どもの遺体を調べる時だ。自身も幼い孫が5人いる。「検視官は死因や亡くなった日時などを見極めることで、被害者や遺族の無念を晴らすことができる」との思いで遺体と向き合ってきた。
 16年の退官後も再任用で働き続けた。昨年4月、諫早市のスナックで起きた連続昏睡(こんすい)強盗・強盗致死事件では、死亡した被害者の遺体や周囲の状況から「事件性あり」と判断。容疑者グループの逮捕につながった。
 今後は刑事伝承官として若手の育成に当たる。「100の遺体があれば100通りの死因がある。先入観を持つことなく死因の究明に努力してほしい」。後輩に検視官としての心構えを伝えていく。

「検視官は被害者や遺族の無念を晴らすことができる重要な仕事」と語る大迫さん=県警本部

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