【崖っぷち折原コラム】可夢偉とコバイライネンに訪れた危機。原因不明の不調に悩まされるチーム

 今季、DENSO KOBELCO SARD LC500に小林可夢偉が加入した。チームメイトのヘイキ・コバライネンと合わせて、現在のスーパーGTにおいて、最強のパッケージが誕生したのではないだろうか。昨年、圧倒的な早さを見せたレクサスLC500にブリヂストンタイヤ。そして、エンジニアは何度もタイトルを獲得している田中耕太郎と、望むべく最高レベルのチームといって良いだろう。

 このコータローさんと可夢偉のコンビだが、個人的には以前、スーパーフォーミュラで可夢偉がTeam Le Mansにいたときに結成されるのではないかと期待していた。だがその時は諸事情で実現しなかった。その後、可夢偉はKCMGに移籍し、低迷していたチームを一気に引き上げた。一方のコータローさんも、KONDO Racingのスーパーフォーミュラマシンをポールを取れるまでに仕上げている。今年、カテゴリーが変わったとは言え、2018年にそのコンビが見れることが楽しみで仕方なかった。

 ところが蓋を開けてみると、先日の岡山公式テストでタイムが伸びてこない。もしかしたら、F1やWECマシンドライバー特有の症状「待てない症候群」かと疑った。待てない症候群と勝手に名付けているのだが、マシンが曲がる体勢になるのを待てない感じのことだ。

 F1やWECマシンはステアリングの入力に対して、ダイレクトに反応する。対してGTマシンは、モンスターマシンとは言え車重やシャシー剛性などの面で一段落ちる。そのためステアリングを切ってから、向きが変わるまでに一瞬のタイムラグがあり、ちょっと溜めてからアクセルを開けないとならないらしい。

 常人には理解できないほど些細な差なのだろうが、彼らにとってはその一瞬が果てしなく長く感じられるのだろう。現在、ホンダRAYBRIG NSX-GTのジェンソン(バトン)のタイムが上がらないのも、同じ理由ではないかと勝手に想像している。

 ただ、腑に落ちないのは、ヘイキのタイムまで上がらないことだ。2016年にチャンピオンを決めた、最終戦ツインリンクもてぎの予選アタックはコースサイドで見て、ゾッとするほどのキレを見せていた。そうなると疑わしいのは使う道具でもあるマシン、と言うことになる。

 岡山テスト2日目の昼に話を聞くと、可夢偉は「おかしいです。ヘイキも同じことを言ってるんだけど、思った方向にマシンが向かない。セパンで別の車両(テスト車両)にも乗ったけど、まったくフィーリングが違う。ハマってる感じと言うか、テストで走る以前の問題かな」と答えていた。

 ちょっと質問を突っ込んで、セパンで乗った車両の方が良かったのか? とか、セットアップ以前の問題なのか? などと聞いても、答えにくそうに頷くくらいしかリアクションがない。チャンピオンチームと今の体制で、大きくセットを外すことも考えにくい。となると残るは、車体の個体差とか車体側でなにか致命的なダメージを受けている、くらいしか考えが及ばない。もしかしたら、DENSO KOBELCO SARD LC500は思ったよりも遥かに根の深い問題に直面しているのかもしれない。

 この先マシンの問題が解決し、3人のギヤが噛み合えば、その実力とポテンシャルが高い分だけ恐ろしい推進力を生み出すだろう。F1で表彰台を経験した2人の世界トップドライバーと、多くのチームを再生してきたエンジニアを擁するこのチームは2018年の台風の目になり得ると確信している。

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