【特集】「ご教示ください」という傲慢 文科省の授業報告要請問題(1)

By 佐々木央

文科省が名古屋市教育委員会に送った質問文書の一部

 ほとんどの質問項目に「具体的かつ詳細にご教示ください」または「具体的にご教示ください」と書かれている。数えると「具体的かつ詳細に」は6回、単独の「具体的に」も6回あった。追加質問では「詳細に」は消えるが、「具体的に」が8回出てくる。

 前文部科学事務次官、前川喜平さんの名古屋市立中での授業について、文科省初等中等教育局教育課程課の課長補佐が名古屋市教委に出した質問状のことである。

 ■ものを尋ねる態度■

 私の仕事である記者は、人にものを尋ねることを中心にして成り立っている。素人・市民に代わって、その道の専門家や担当者・関係者に「教えてください」と頼む。知らないことを教えてもらい、裏付けをとって記事を書く。

 そのとき、いきなり「具体的かつ詳細に話してくれ」とは言わない。最初はできるだけ自由に、相手が答えたいように答えてもらう。もっと詳しく知りたいと思ったとき「現場はどんなふうだったんですか」などと聞く。いちいち「具体的かつ詳細に」などと注文を付けたら、場合によっては意図を疑われるだろう。「嫌がらせに来たのか」と。

 「具体的」にも「詳細」にも定義はないから、延々と話し始められたら困る。何でもたくさん聞けばいいというわけでもない。特ダネ記者だった先輩には「要の情報は1行」と教えられた。

 「具体的」や「詳細」を伴って繰り返される「ご教示ください」からは「教えを乞う」という意味が消えうせ、傲慢なニュアンスさえ帯びる。今後は「ご教示」という言葉を使うまいと思うほどだ。

 ■再質問という脅し■

 質問状の前書き部分に次のような注記がある。「なお、ご回答を踏まえ、再度書面にて又は直接ご確認をさせて頂く可能性がありますので、ご承知おきください」。追加質問でも同様だ。

 これは何だろう。文字通りに解すれば「答えが納得できない場合、あるいは不十分な場合は再質問する。そのときは文書でなく、そちらに出向くか、来てもらうこともあり得る」ということだ。普通このような予告はしない。必要があるなら、それに応じて再質問すればいい。わざわざ再質問の可能性を持ち出すのは「回答内容いかんではただで済まない」という脅しに見える。

 たった1コマの授業について、最初の質問状はA4用紙3枚で15項目、追加質問もA4の紙3枚で12項目も聞いている。ストーカーのようなしつこさだ。

 形式や用語だけでもこれほどの異様さがある。全文を読んだ第一印象は「執拗で威圧的」。質問状の作成に関わった人の中に、よほど前川さんを快く思わない人がいるのだろうと思った。

 その後、この質問に自民党文科部会長と部会長代理が関わっていることが明らかになった。文科省側は部会長代理の池田佳隆衆院議員に、事前に質問状を見せ、その意見によって、内容を修正したという。だとすれば自民党議員の意向が、表現の細部にまで及んだのだろうか。

 質問者はよほど「具体的かつ詳細に」がお好きなようだ。この質問状を「具体的かつ詳細に」検討することで、一連の動きを読み解きたい。(47NEWS編集部、共同通信編集委員・佐々木央)=続く

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